街は彩られ、恋人たちで溢れている。
クリスマスイブだと言われても、ド平日の今日はもちろん仕事。
残業を終えた私は、頭の中で明日の仕事を組み立てながら、パソコンの電源を落とした。
そしてもうひとり、まだパソコンとにらめっこしているのは同期の土方だ。
「土方ぁ、もう終わる?」
「ああ」
「ねえ、どうせ今日予定無いでしょう?」
帰り支度をしながら、そう声をかければ、イライラとした声が返ってきた。
「・・・・・・何勝手に決めつけてやがる」
一瞬、ものすごい悪い目つきで私を睨んだかと思えば、またすぐにパソコンの画面に視線を戻した。
彼とはもう、5年くらいの付き合いになる。
仕事と、時々飲みに行く。ただそれだけだ。
「遊ぶ子はたくさんいるのに本命には手を出せないヘタレだって知ってんだから」
「っるせぇな」
「あれ、今日は本命さんと予定でも?それは失礼。じゃあ一人で行こうかな、お疲れー」
「・・・ったく、馬鹿野郎。あと5分くらい待てねぇのか」
こんな風に憎まれ口をたたいても、許されるこの関係が心地いい。
ずっとこのままもいいけれど、実はもう一歩踏み出せたらいいのにって、思う。
あと5分なら、会社の外、駅の近くにある喫煙所で待っている方が良いだろうと、私はコートを羽織ってオフィスを後にした。
別に、何かロマンチックなことをしたいわけでも、して欲しいわけでもない。
そもそもそんなの、土方に似合うわけがない。
「・・・・・・ぷっ、はは」
彼が、愛してる、なんて言うところを想像したら、思わず笑いがこみ上げてきた。
でも、もしかしたら言うのかも。本当に好きな子に、特別なときに。
まあ私なんかが言われることはないだろうから別に―――
「・・・・・・っ!?」
また、タバコを口にくわえた瞬間だった。
後ろから伸びてきた手が急に私を包み込んだのに驚いて、ぽと、とタバコがアスファルトに転がった。
まさか痴漢なんじゃないかと後ろも見ずに思いっきり肘鉄食らわせてやったら、悶絶のうめき声。
よしっ・・・・・・て、あ、あれっ!?
「・・・信っじらんねぇ、」
「え!?・・・ひ、土方!?うそ、何してんの!?ていうか、ご、ごめん・・・?」
「カッコ悪すぎんだろ・・・」
お腹を抑えながら背中を丸めた彼に、結果どっちが悪いのかわからないからとりあえず疑問形で謝った。
だって、突然背後から襲うとか、ずるくない?
「もう少し可愛げのあるリアクション期待してたんだが、相手がお前じゃやっぱこうなるよな」
直撃したらしい腹部をさすりながら、顔を歪めてそう言った。
「・・・・・・うわ、それはそれで本当失礼じゃない?もう一回やってくれたら期待通りのリアクションしてあげますけど?」
「・・・じゃあ、あっち向いてろ」
来るのがわかってるのに、相手が土方だってことだけで、なんだかとてもドキドキとしている。
「・・・メリークリスマス」
―――う、うわっ・・・。
耳元で囁かれた、私には縁のない言葉に、ドキドキがおさまらない。
ふわりと後ろから抱きしめられて、そっと私の手のひらに閉じ込められたそれは。
「・・・・・・何、」
「鍵以外の何に見えるってんだ」
「や、わかるけどっ、あ、あの・・・ど、どどど、どうっ・・・」
このリアクションは、演技なんかではこれっぽっちもなくて。
「使おうが使うまいが、お前の自由だ。じゃあな」
「ちょっ・・・・・・」
ふっと、彼が離れると、背中のぬくもりが消えて、一瞬で冷えた空気に包まれた。
「ま、待ちなさいってばっ・・・!」
「なんだよ、返品は受け付けてねぇぞ」
「違う!・・・はっきり言え、バカ」
「・・・・・・聞きたいか?」
ニヤリ、と口角を上げて、私の慌てぶりとは正反対に、余裕たっぷりの笑顔を見せた。
すると今度は、私の耳元に唇を寄せて。
「愛してる」
笑ってしまったのは、そのセリフが似合わないからじゃなくて、幸せだと思ったから。
染まるなら、あなたの色がいい
merry christmas...!!