「ぜっっっっっっっっっったい無理っ!!」

「えー?良いじゃん、楽しいよ?」

「やだやだやだ!やだって言ったら、絶対やだっ」

「えー?なまえちゃんが行きたいって言ったくせにー」

先ほどから頑なに拒んでいるのは、私が世界一嫌いなもの。

どうして自分から怖い思いしなきゃいけないわけ?

スリルって何?それって必要?平和に生きていたいって思う私はおかしいの?

「確かに私が行きたいって言ったけど・・・言ったけどーねえお願い、やめよう・・・本当無理・・・

だって、他に楽しいのいっぱいあるのに何でわざわざこれなの!?初っ端はきついよ。後々のテンション考えよ?

今行ったら絶対私この後終始テンション下がる事になるけどそれでも良いの?せっかくのデートなんだよ?」

「・・・・・・今行かなくていつ行くの」

「今でしょ!?」




ノン・シュガーレス





「うわーん!総司のばかーーーー!!やだやだ!」

「えー?自分で今行くって言ってたよ?」

「誘導尋問ですっ!無理ー!泣いてやる!」

「良いよ泣いても。なまえちゃんの泣き顔は最高にそそるから」

「なっ・・・・・・」


付き合ってから初めてのデート。

どこに行きたいかと問われた私は、遊園地と答えた。

何故って?

観覧車乗ったり、ジェットコースターでワーキャーしたり、ソフトクリーム食べたり、個性丸出しの着ぐるみと写真取ったり。

そうして仲良く手をつないで園内を歩くだけで全然楽しいと思うのだけれど。

しかし彼は、私がお化け嫌いな事を知っていて、今まさにお化け屋敷に強引に連れ込もうとしているところだ。

断っておくけれど、これは決してフリではなく、リアルに無理なやつなのだ。

『やだーこわーい』とか言ってギュッと抱きついたりする為などでは一切ない。

昔から怪談だとか、お化け、ホラー映画の類が苦手だった。

一人でトイレにも行けなくなる程に・・・。



「・・・気絶したら総司のせいだからね」

「えー?大丈夫だよ。そんなクオリティ高いお化け屋敷あるなら逆に行ってみたいけどね」

「怖いもの知らず・・・」

「好奇心旺盛と言って欲しいな。さー行くよ。せっかくのデートなのに時間勿体ないじゃない」

「せっかくのデートだから嫌がってるの!私は楽しく二人で居たいだけなのに・・・」

「だから、楽しいよっ?」

首を傾けてにっこりとほほ笑む総司が悪魔に見える。

でも、その笑顔にやられてしまった私は、曲がりそうもない彼に従って、何年かぶりにお化け屋敷に足を踏み入れる事になった。



無駄に効きすぎている冷房。焚きすぎのスモークによってぼんやりと雰囲気を醸し出している照明。

それから、おなじみのあの、ヒュードロドロ。

あああ、もう、逃げたい。今すぐここから逃げ出したい。逃げるなら、今でしょ・・・!?


ガタン


「ぎゃあああああああ!!!!」

「え、え?ちょっとなまえちゃん!?待ってよ!」

背後から聞こえた物音に怯え、早足で進む私に小走りで付いてきた総司。

「ほら!手、ちゃんと繋いでて」

「うう、ぐす」

「もー。そんなにダメなんだね?」

「言ったよ・・・私、すごい無理だって、相当言ったハズだよ・・・」



パキっ


「ひぃぃいいいいやああああ!!!」

「もう、大丈夫だってば」

「ああ・・・もう・・・」

指を絡ませてぎゅっと繋いでくれる手はすごく嬉しいんだけど、状況が状況なだけに、総司の手にドキドキしている訳ではない自分にがっかりする。


「こ、こわい・・・」

「・・・なまえちゃん、ちょっとそれ可愛すぎなんだけど」

繋がれていない方の手で総司の上着をぎゅっと握って上目づかいで訴えてみれば、少し照れた顔をした総司。

「ごめん、今それどころじゃない・・・リアルに怖い」

「僕はお化け屋敷どころじゃないかも」

「え?何言って・・・!?」




は?


ちょっと、え?



「んっ・・・んん」


なんて自由な人なのだろう。

こんなお化け屋敷のド真ん中で、キスしてくるなんて。

しかも、舌まで入れる?

「ああ、もうダメだ!早く出よう?この暗さが悪いね、なんかそういう気分になってきちゃった」

「どういう気分!?この恐ろしい空気の中で!?」

さっきまで余裕の笑みで私を引っ張ってくれていた彼は、急に切羽詰まって急ぎ足で順路を進む。

全く周りを見ずに進んで行く彼の背中をたくましいと思ってしまった。

これがお化け屋敷じゃなかったら文句は無いのだけれど。



「きゃああ!」

「うわっ!?」

「え?」

「はっ!?」


恐怖ポイントかと思えば、急ぎ足で歩きすぎたらしく前を行くカップルに追い付いてしまった。

せっかく入口のお姉さんが間隔を空けて案内してくれているのに。

「す、すみませんっお邪魔するつもりは全くないんですけど、あの、本当にすみません」

ただひたすらに頭を下げる私に、もうすぐだから早く出ようって腕を引っ張って行く彼。

嗚呼、自由人。

彼のこの図太さ、ちょっとだけ尊敬する。



カップルを追い抜いて、外に出た私たち。

ぐったりとうなだれる私に、必要以上に触れてくるこいつの頭の中は最早エロでいっぱいなんだろう。

「なまえちゃん、大丈夫だった?具合悪くなったんじゃない?もう家に帰って休みたいよね?」

「・・・・・・いやむしろ、この青空の下で一休みしたい」

「ちょっ・・・ちょっと、なまえちゃんって意外と大胆なんだね・・・さすがに僕でもまだ経験はないかな・・・でもどうしてもって言うなら」

「そ、総司のあほーーー!!!」


みなまで言わせてなるものかと、確実に勘違いした彼の言葉をさえぎって突っ込みを入れる。

そういうスリルも別に欲しくない。


欲しいのは、あなたからの確かな愛情と、優しさ。それで十分。




おわれ

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