いつもと同じ駅までの道のり。

同じ景色。

同じ匂い。

ひとつだけ、違うのは。

あの日からずっと、信号待ちのその先に、彼の姿を探してしまうんだ。


居るわけないって、わかっているのに。






「え!?商品が届いてない!?」

今日の午前着の納品が届いていないと、取引先から電話があった。

昨日の発送状況を、出荷倉庫と配送業者に確認を取っている時間もない。

早急に必要なものなのだと、大クレームだ。

とりあえず手持ちで行ける分、直ぐに向かわなくてはまずいと、倉庫スタッフと連絡を取り合いながら、私も取引先に向かった。

ああ、なんてついてない。

ついてないんだろう。




それもこれも、今朝夢に総司が出てきたせいだ。

きっとそうだ。

快速電車にゆられながら、私はそう心の中でごちた。




彼と会ったあの日。

私は、家に帰るなり、彼に振られた日と同じくらい、泣いた。

彼の匂いと、温もりを思い出してしまって、蓋をしていたはずの思い出が、急に溢れ出してしまったんだ。

正直、家に帰るまでよく我慢が出来たなと思う。

最寄駅に着いてから、私はぼやけた視界のまま、涙をこぼしてはなるまいと、瞬きをするのを必死でこらえていた。

こんなに溜まった涙は多分、直ぐに頬を伝ってしまう。

声をあげて泣きたいから、だから、お願い、もう少し頑張って、私。

そうして家についたとたん、私の涙腺は崩壊した。

玄関で崩れ落ちて、顔をくしゃくしゃにして、わんわん泣いた。

大人になっても、悲しくてこんなに泣けるもんなんだ。




まだ、幸せそうに笑っていてくれた方が、何倍も楽だったと思う。

そうしたらきっと私も、切り替えられたかもしれない。

それなのに。

愛しい人のお葬式の帰りだと言って、冷え切っていた彼の心に、何もしてあげられなかった自分を呪った。

きっと、彼が泣いた時、そばにいたのがたまたま私で、それは他の誰でもよくて。

今まで私に涙を見せなかった総司が泣いたのは、周りのことなんて考える余裕すらないくらい、亡くなった彼女への想いが溢れたせいなんだろうって思ったら、私の居る場所なんてこれっぽっちもなくて。

私を抱きしめたのだって、きっと彼女の代わりだったんだ。




そうしてそれから、毎日のように彼の姿を探してる。

居るわけないってわかってるのに、出かける先で、ずっと彼を探してしまう。

違うと分かっていても、似ている人の背中ですら、目で追ってしまう。



だって、総司が言ったんだ。



『次に僕らが会えた時は、運命かもしれないね』



そんなこと、言われたら。

必死であなたを探してしまう。

すれ違いたくない。

運命だって、信じたい。




そう思っている私だから、強く彼を思っているから、夢にまで出てきてくれたんだろうか。

せめて夢でくらいは、会ってもいいよなんて、総司が思っているんだろうか。





ちゃんと、ご飯食べてるのかな。

彼女のお墓参り、行ったかな。

仕事、出来てるかな。

・・・・・・笑顔で、居られてるかな。



もし、この先彼に会うことが叶わないのなら。

総司の分の辛さを私が背負うから、どうか彼だけは、幸せにしてあげてください。

どうか、どうか。




そうして私は、快速電車を降りて、改札を抜けた。

普段来ることのない街。

見慣れない景色。

知らない匂い。

それでも私は、相変わらず彼の姿を探してしまう。




グレー



それは、限りなく、シロに近い―――







「・・・・・・なまえ?」




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