パタン、と扉の閉まる音。

カツカツカツ、と廊下を歩く。

そして、コンクリートの階段を降りる。

少し早足の、アスファルトに響くコツコツという音は、今日も同じ時間に消えていく。



ドラマチック



大学の課題をやらなくてはと、ローテーブルに広げた資料と格闘していた時だった。

来客の予定なんてない。こんな時間にインターフォンを鳴らす、非常識な友人も居ない(・・・筈だ)。

リビングの扉を開けると、ひやりとした空気が入り込んできた。思わず身体を震わせる。

心当たりは全くないが、ドアスコープから確認できたのは、女の子。もちろん、見覚えなんて無い(・・・と思う)。

「・・・あっ、あのっ」

僕が顔を出すと、おどおどとした彼女は寒そうに両手をさすっていた。

目のぱっちりしている、小柄な女の子。

ライトブラウンのダッフルコートを着て、僕を見上げている。

「お、お金っ、貸していただけませんか?」

唐突なその言葉に驚く事しか出来なかった僕は、彼女のその表情から必死なのだろうということしか読み取れない。

気が動転しているらしい彼女がどこの誰で、どうして僕の家を訪ねてきたのかと聞いてみると、いつも僕が耳を澄ませている足音の彼女だった。

アルバイト先に置いてきたらしい財布と鍵を取りに一旦は戻ろうとしたものの、終電も終わっているため電車にも乗れない、タクシーにも乗れない。

タクシー代を貸してほしいと言われたが、それが確かにアルバイト先にあるのであれば、明日向かえばいいと僕の部屋へとあげた。

別に、お金を貸すのが嫌だったわけではない。




「わ、私に何か出来ることありませんか!?」

「・・・・・・じゃあ・・・」

スカスカの冷蔵庫を見て一瞬躊躇した彼女が作ってくれた夜食も美味しかったし。

お互いの自己紹介をしてみると、年齢も近いせいか、案外話が合って盛り上がってしまった。

彼女が抱き締めているクッションが、普段使っているそれより大きく見える。

貸してあげたスウェットなんてあんまりだぼだぼ過ぎて笑ってしまった。

もう夜が明けそうな白み始めた空に、少しだけでも眠らないとと、遠慮する彼女に僕のベッドを貸してあげた。




目を覚ますと、既に出掛けたらしい彼女はもう居ない。

なんとなく、君の温もりが残っている気がして、自分のベッドにもぐりこんだ。

慣れていた筈の一人暮らしのこの部屋が、やけに静かで寂しいと感じるなんて―――




「ん・・・・・・」

二度寝をしていたらしい。

連日来客が多いなと、聞こえたインターフォンに起き上がった。

朝のこの時間、普段なら宗教や新聞の勧誘だろうと居留守を使う事がほとんどなのだけれど。

期待した。

もしかしたら、扉の向こうに―――



「・・・おかえり」

「・・・たっ、ただいま」



END

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