「総司さあ、また古典0点だったんだって?」
昼休みの屋上。ぽかぽかの太陽の日差しが気持ちいい。
私は体育座りをしてフェンスに寄りかかりながら、食後のパックジュースをすすっていた。
「土方先生が私にわざわざ言ってきたんだけど。お前からも怒ってくれーって」
「・・・・・・」
隣の彼は、ふあ、とアクビをひとつ。
寝不足なのか、この日差しに誘われたのか。
総司は目尻に溜まった涙を人差し指で拭った。
その様子に、大して興味もないんだろうなと思ったら、土方先生がかわいそうに思えて、私はくすくすと肩を揺らした。
「あんたも飽きないよねぇ〜」
「・・・んー」
「ちょっと、何?」
私よりも背の高い総司が、こてんと私の肩に頭を預けてきたのだ。
その瞬間、香る総司の匂い。
抱きしめられるときには、彼は私の首筋の匂いを嗅いではキスを落とす。
私も、彼の甘い匂いが好きだ。
「甘えてるの」
「もう」
じゃれてくる彼は可愛い。猫みたいで。
普段いたずらばかりして走り回っている彼からは想像つかない。
よしよし、なんて頭を撫でてあげれば、不貞腐れた声が聞こえてきた。
「・・・土方さんのお願いなんて聞かないでよ。どっちの味方?」
口を尖らせた総司が私の顔を覗き込む。
その綺麗な瞳に見つめられると、私はいつも、ドキドキする。
いつまでたっても慣れない。
「そ・・・」
総司に決まってるじゃない、そんな当たり前の言葉を口にしようとしたのに、できなかったのは、彼の唇に塞がれてしまったから。
ちゅ、と音を立てて離れていった彼の唇は、先ほどとは正反対、嬉しそうに孤を描いていた。
「総司・・・?」
「ねえ、ドキドキしたでしょ」
「不意打ちはやめてっていつも言ってるのに」
そうため息をつけば、今度は私の肩を抱き寄せて、こつんと頭同士がぶつかった。
「やめられないよ、好きなんだから」
「あの野郎、どこ行きやがったっ・・・!」
「あれ、土方先生?」
ネクタイを締めた首元に人差し指を入れて、煩わしそうに少しだけ緩めている。
珍しいな、いつも追いかけることなんてないのに。
息を切らしているということは、おそらくそういうことだろう。
私は、移動教室の帰り、教科書とペンケースをブラブラさせながら歩いていた。
もう今日の授業は終了、あとは掃除と部活だけ。
一緒に歩いていた友人は先に行くねと、土方先生に頭を下げて小走りで教室に戻った。
私は帰宅部だからいつも総司の剣道部を覗いて一緒に帰っている。
「みょうじ、総司見なかったか」
「えー・・・っと、授業中だったので・・・」
「そうだよな、悪い」
「何かあったんですか?」
「・・・あいつ、テストでまた人を馬鹿にした落書きしやがって。真面目に受けた試しがねぇ」
「あははー・・・・・・えっと、代わりに謝ります、」
「お前も大変だな」
はあ、と深いため息をついた土方先生。
でも・・・大変だったら付き合って居られない。正直、総司に手を焼いているわけでもない。
私にはとても優しいし、迷惑をかけられたことは一度もないもの。
強いていてば、ただこうやって先生たちに謝ることくらいだ。
「ちょっと土方さん、人の彼女口説くのやめてもらえますか?」
階段下から聞こえた声に先生と二人で視線をやれば、ちょっとイラついたような顔の総司が登ってきた。
「総司っ!てめえ何処に行って・・・!」
「・・・・・・なまえ、逃げるよ」
「へ・・・・・・!?」
耳元で囁かれた言葉を理解するよりも早く、総司がわたしの腕を引いて走り出した。
けれど運動が苦手な私が、足の速い総司と同じ速さでなんて走れるわけない。
足をもつれさせて転びそうになって、彼の腕にぎゅっとしがみつくと、その重みに気づいて、総司がやっと止まってくれた。
「なまえ?」
「・・・もう!私、はっ・・・総司みたく、走れ、ないから・・・!」
「・・・・・・・・・」
「・・・え!?ちょっ・・・!!」
わたしの左腕を自分の肩に回したかと思えば、背中に添えられたのは彼の右腕。
そして、両膝を裏側から自分の左腕に器用にかければ、私は総司に軽々と持ち上げられてしまったわけで。
「なまえ、痩せた?」
「は!?お、おろしてってば!総司っ!!!恥ずかしい!ていうか、怖い!!」
「なまえと同じペースで走ってたら追いつかれる」
お姫様抱っこされて校内を走っているというこの何とも恥ずかしい状況に私はただ顔を赤らめて彼にしがみつくことしかできない。
普段よりも目線の位置は高いし、速いし、不安定で怖い。
ぎゅう、と総司にしがみつけば、彼は走りながら声を上げて笑った。
「なまえが甘えてる」
「ち、違うでしょ!!怖いの!!!!」
「素直に認めなよ。本当はずっと甘えたかったって」
「いいからっ、下ろしてーーーー!!!」
「あははは!・・・・・・やだ」
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どうした、沖田!!!!orz
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