「好きでもない人に告白されたら、どうしますか?」
「・・・・・・なんだ、お前、告白でもされたのか?」
「え、わ、私!?ち、違います・・・例えば、ですよ」
一瞬驚いた顔でそう聞いてきた先生に、私が逆に驚かされた。
だって、私、今まで告白なんてされたことないし。
慌てて否定をした私を見て、彼はタバコに火をつけた。
「そうだなあ、・・・・・・断る・・かな」
当たり前だ。でも、やっぱりそう聞いてしまうと正直なところ少し悲しい。
可能性は無くはないと、思いたかっただけなんだけれど。
結局のところ、先生が私を好きになってくれるなんて無理なんだろうなって思い知らされただけだった。
「変なこと聞いてしまってすみません、失礼します」
「・・・お前は?」
「え」
「お前はどうすんだよ、好きでもないやつに告白されたら」
「・・・・・・私、」
ああ、それは考えたことなかった。
先生のことばかり考えていたけど、じゃあ先生の立場に立ったらって・・・そうか、好意を寄せてくれる相手を断るって、結構しんどいのかもしれない。
それが自分の大切な人だったり、よく知る人だったら、余計。
「・・・どう、するんですかね・・・実際されてみないと、わからないです」
そう言うと、何とも言えない表情で、ふう、と煙を吐き出した。
怒ったの?呆れてるの?がっかりしたの?
・・・だめだ、全然わかんない。
とにかく、原田先生が評価してくれている私の論文。それは一番に読んでもらいたい。
好きとか嫌いとか、そういうのはとりあえず置いておくとして。先生に“面白い”って言ってもらいたい。
やっと書き上げた論文を持って、久しぶりに来た先生の研究室。
「・・・・・・あ、れ」
鍵がかかっているということは、喫煙室にでもいるんだろうか。
「・・・・・・みょうじ?」
「先・・・・・・」
「悪いな、待たせちまったのか?」
「い、いえ・・・今来たところで・・・」
「ほら」
扉を開けると、私を中に案内してくれた先生。
その笑顔は、以前と全く変わらなくて、少しほっとした。
書き終えた卒論を先生に渡して、用は済んだからと研究室を後にしようとした私を、先生が呼び止めた。
「なあ、みょうじ」
「はい?」
「この間の話の続き、してもいいか?」
「この間の・・・?」
「好きでもないやつに告白されたら、ってやつ」
「・・・あ、ああ」
この話題は、正直あんまり思い出したくなかったんだけどな、と思いながら、原田先生の言葉に耳を傾けた。
「俺が、お前に告白したら、どうする?」
突然の、先生の質問の意図が全くわからなくて、私は固まるしかなかった。
「は・・・」
「だから、俺が、お前にとって、どっちか分かんねえけどよ。されてみないと分かんねえって言ってただろ?実験、だと思って答えてみろ」
「そんなの・・・・・・」
「みょうじ、お前が、好きだ」
「あ・・・・・・―――」
こんなに、ドキドキすることなんて、初めてだと思う。
今まで告白されたこともないし、彼氏だっていたこともなくて。
「みょうじ?」
「・・・・・・あの・・・す、すみません、本当にびっくりして」
「悪い、別にからかうつもりなんて―――」
「実験する必要なんて、無いです」
「どういうことだ?」
「だって私、先生のこと“好きでもない人”だと思ったことないです」
「・・・・・・つまり?」
「・・・や、その・・・だからですね・・・」
・・・原田先生は、意地悪だ。
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