「なまえ、おはよ!」
「腹減ったな〜。なまえの弁当超美味そう」
「なまえ!今日部活休みなんだ、この前話してた店寄ってこーぜ」
「なまえ」
「なまえ、」
「なまえ・・・」
彼はいつも、私の名前を呼んでくれる。
けれど私は恥ずかしくて、彼の名前を呼んだことがない。
高校に入学してすぐだった。
「・・・あのさ、ごめん、ちょっとノート見せて?」
「え・・・あ、うん」
申し訳なさそうに、顔の前で手のひらを合わせてお願いポーズをしてきた彼に、私はノートを差し出した。
「ありがとな!助かる!」
そうして笑った彼に、ドキドキした。
藤堂、平助・・・くん。
まだ皆の名前なんて覚えていないから、私は彼の名前を記憶するように心の中でつぶやいた。
どうして私のノートが必要だったのか、もちろん聞かずともわかっている。
コクリコクリと、眠気と戦っていた彼は、授業終了を告げるチャイムに驚いたらしく、顔を上げて周りをキョロキョロ見渡していたのだ。
書き写し終えたらしいノートを閉じて、その表紙に書いていた名前を彼が呼んだ。
「ごめんなー。えっと・・・みょうじ、なまえ・・・・・・なまえ、ありがと」
その日以降も、隣の席の彼はよく眠っていた。
珍しく起きてるなーと思う日も、頬杖をついて前を向いていたその顔は、まぶたを閉じているらしい。
そして、休み時間になると元気になるのに、授業が始まるとまた机に伏せて寝息をたてる。
剣道部に入部したのだと言っていた、そのせいなのだろうか。
「なまえ、あのさ、次の授業、寝てたら起こして!」
「う、うん・・・・・・」
そうだ、土方先生の授業・・・・・・たしか剣道部の顧問だ。
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