先ほど担任にがっかりしたばかりだというのに、高校初めての授業が大嫌いな数学で、わたしはさらにうなだれていた。
近くの席同士で話したりしている子達はもうグループができ始めていて、私はなんとなく、その輪に入るに入りそびれてしまった。
出遅れたなあ、そんなことを思いながら、窓際の一番前という何とも微妙な席で机に伏せた。
中学の友達に会いたい、もうみんなが恋しい。
案外、差し込む朝の日差しが暖かくて、ゆっくりとまぶたを閉じた。
「った、」
頭に何かがぶつかって、目を覚ました。
どうやら私は本気で眠っていたらしい。
「名前は」
「・・・え・・・」
どうやら教科書で軽く頭を叩かれたらしい。
見上げたその人は、数学の教科書を掲げていた。
濃紺のスーツに、淡い青のネクタイと、白いシャツ。
前髪の隙間から覗いたその瞳から、私は目が離せなかった。
笑っても、怒ってもいない無表情のその顔は、なんだかとても透明感がある。
けれどその瞳がなんだか冷たい気がして、でも、怖いと思った訳ではなかった。
ただ、なんとなく。そう、寂しそうな気がしたんだ。
だから本当に、ただの興味本位で、この人の笑った顔が見たいなって思った。
「・・・ゆ、ゆめ・・・?」
「何を呆けている。とっくに授業は始まっているが」
「す、すみませ・・・」
周りからクスクスと聞こえる笑い声に、どうにも恥ずかしくなってしまって、私は小さくなることしか出来なかった。
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