「なまえちゃん!」
剣道着姿の沖田先輩が、放課後私のクラスに乗り込んできた。
ぺたぺたと、素足のような足音に驚いて、私の名前を呼んだ彼の足元を見やれば、裸足。
切らした息とその姿に、慌てて駆けつけたんだろうなと、とりあえずそれだけは分かった。
突然の沖田先輩の訪問に、バタバタと帰り支度をして帰って行った友人達を視界の端に捕えながら、私は呼ばれた名前に返事をした。
「は、はい・・・?」
付き合ってから分かったけど、私の彼氏は独占欲が強いらしい。
私の隣の席に腰かけた沖田先輩は、机に突っ伏して乱れた息を整えながら、無造作に伸ばした手で私の膝の上の手をぎゅっと握った。
「なまえちゃん・・・」
「あ、はい」
机に伏せていた彼が、ちらりと私の方を見やれば、沈みそうな夕焼け空の色が彼をオレンジに染めた。
彼に触れられている手が、どうしようもなく熱くて。
ピクリと動かす事も躊躇われるくらい、静かに彼は、私を見つめていた。
「心配、した」
「・・・え?」
何の説明も無く伝えられた結論からは、何も読み取ることが出来なくて、思わず聞き返した。
「また告白されたって聞いたけど、本当?」
「・・・・・・ああ、えっと・・・・・・情報早いですね」
つい数時間前、昼休みに後輩から告白された。
別に何とも思っていない相手に何を言われようと、心が動く可能性なんて無いに等しい。
「・・・断りましたよ?」
私のその言葉を聞いて、ひとつため息をついた沖田先輩が、ふっと優しく口元を緩めたのは見間違いでは無かったと思う。
ゆっくりと息を吐き出して、私の手を少しだけ強く握った。
「・・・どこにも行かないって約束して」
その、綺麗な瞳に、私が映ってる。
「君には僕しかいないって、分かってるでしょ?」
当り前のようにさらりと言ってのける、その自信家なセリフだって。
「よそ見なんてしたら、許さないからね」
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