お酒が無くなったらすぐにおかわりを聞きに行くし、会話に参加していない人が居たら輪を作ってあげるし。
でも頭を下げる訳でもなく、さらっと相手を虜にしているみたいな感じ。
誰よりも動き回っていて。知ってる?あなたお店に来てから一度も座って無いんだよ?
episode1 ""
その人は、贔屓にしてくれている音楽事務所の人だった。
よくウチの店を打ち上げ会場として使ってくれていて、彼も一人でお店に来てくれる時もある。
最近になってやっと仕事の愚痴を漏らしてくれるようになった。
完璧な人に見えていたから、人間らしい一面もあるんだって少し嬉しかった。
「もしもし?」
『みょうじ?すまねえ、予約いいか?』
「お店にかけてくれれば良いのに」
『お前に直接言った方が話が早いんだよ』
「頼られてるって事で、まあ許そう。・・・いつ?」
『来週の土曜なんだが・・・』
彼が受け持っているバンドが変わったと聞いて、少し驚いた。
まあ人事異動みたいなやつなのかな?
大人の事情?あんなに信頼し合っていたのに、ちょっと残念。
彼が離れてから前のバンドの子たちには一切会わなくなった。
「オッケー、じゃあフードは予算内で適当にやっとくね」
『助かる、いつもすまねぇな』
「いいえ、お得意様ですから」
prev next
back