折角二人きりになれたと思ったのに。
家が逆方向だからと、店の前で別れた土方さんの背中を見つめたまま、隣の君が切なそうな顔をするから、僕は何もできなかった。
離れたくない、もっと一緒にいたい、そんな横顔を見せられては、いくら君を好きだと甘い言葉を囁いたとしても、抱き締めたとしても、無意味なことくらい分かっている。
「・・・帰ろうか」
きっと、僕が声をかけなければ君は土方さんが見えなくなるまで見つめていたと思う。
聞こえているのかいないのか、それでもじっと前を見つめたまま君が僕の名前を呼んだ。
「ねえ、沖田くん」
「なに?」
返事をすれば、熱を孕んだ瞳がゆっくりと僕を捉えた。
「・・・・・・帰りたく、ないかも」
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