「おおお、おまっ、お待たせしましたっ」
「あはは、何、緊張してるの?」
「す・・・すこし」
「みょうじさんは、素直だね」
「あの、ええと・・・」
動揺する私をよそに「行こうか」とさっさと歩き出してしまった彼の、半歩後ろをあわててついて行く。
同じリズムで触れそうになる手を、何度も取ろうと思った。
けれども彼の隣に居て良いのはきっと私じゃないからと、掌をぎゅっと握りしめた。
「ねえみょうじさん・・・みょうじさん?」
「は、はいっ!」
「話しづらいから、ほら、おいでよ」
この人は、私をどうしたいんだろうか。
たった今、私が我慢したその行為を、いとも簡単にしてしまうなんて、彼女に罪悪感を感じる事、無いのだろうか。
彼の隣に並んで、手を繋いで歩いているこの現状に嬉しくなって頬が緩む。
それをふりほどくことをしない私の、ずるさ。
いまだけは、いまだけはって、この温もりを知らない方がきっと楽なこと、知ってる筈なのに。
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