「嘘…ありえない…」


深くついた溜息はまぎれもなく彼のせい。
だって…今日は1年記念日だよ…?
そんなのってありえなくない…?

携帯の画面には”すまん、仕事が入った”の一行。いつもそっけない文章だけど、今日のは一段と傷つく。

はじめと付き合い始めて今日で1年。
大きな喧嘩もなく幸せな毎日。
なのに、なのに、どうしてこういう日にドタキャンなの!!?

「はー…帰ろ」

いつもより気合いをいれてしたメイクも、新しく買った服も台無し。

楽しみにしてろって言ってたあの優しい笑顔はどこにいったの…?

「はじめの、馬鹿」

そう小さく呟いた矢先、差し出された手。はじめ…?と淡い期待を抱くも撃沈。

「左之さん、ですか…」

「なんだよ、そのガッカリした感じ。まぁ斎藤から話聞いてるから、気晴らしにうちに来な」

左之さんはカメラマンで、小さいけれどもスタジオを持っている。はじめに連れられてきた時はすごい楽しくて、また行きたいなんて言ってたっけ…

はじめったら気をきかせて左之さんに頼んでくれたのかな…?そんな優しいはじめが大好きで許しちゃう私はとことん単純だ。


「ちょっと待ってな。いろいろ準備してくるから」

そう告げて中に入っていった左之さんの背中を見送る。撮影でも、してくれるのかな。

今日はもうはじめなしでも楽しんでしまおう。そう割り切らないとやっていけない気がする。

しばらくして呼びに来た左之さんに連れられて中に入ると、

「えーーーー…なんでっ…」

誰よりも愛しくて
誰よりも会いたかった人がいた。



「なまえ…」

「はじめ…!!!」

このまま抱きつきに行こうとした瞬間、左之さんに捕まった。


「ちょい待ち。お前はちゃんと可愛くしなきゃな?」

「えっ…?」

「斎藤の格好見りゃ分かんだろ」

はじめの方を見ると照れたように顔を背けた。綺麗めなタキシードを着ているということは、まさかとは思うけど…

「…待ってるから早くしろ」

「は、ハイ」


ーーー言われるがままに指定された場に向かえばメイクさんやら衣装さんやらがいて、あっという間に別人にされてしまった。

「お、お待たせ…」

あの時はちゃんと見れなかったけれど、はじめも綺麗に髪型をセットされてタキシードも来こなしてて、言葉にできないくらいかっこよかった。


「…」

「は、はじめ…?」

「いや…あんたが綺麗、すぎて…」

顔の温度が上がっていくのが分かった。それははじめも同じみたいで耳まで真っ赤だった。

思わず愛しくなって抱きつくと、シャッター音が響いた。

「いいショットいただき♪」

「なっ…!左之!」

「ちょっと!…じゃなくて、なんでこんな格好させられてるの?…ていうかはじめ仕事なんじゃないの?」

そもそもの疑問はそれだ。はじめは仕事だって言っていたのにここにいる。
はじめを見上げれば、真っ赤な顔をしたまま俯いてしまった。

「私、すごくショックだったのに…」

「…すまん。なまえを喜ばせたいと左之に相談したらこうすれば良いと言われたのでな」

…え?
それじゃあ、このために嘘をついてまでサプライズを…?
そんなのやるような人じゃないのに。

「嬉しい、ありがとうっ!」

笑顔を向けると、優しい笑顔が返ってきた。…この笑顔がたまらなく好きなんだよなぁと改めて思う。


「じゃあそろそろ撮るぞ?…つーか、こう見ると本当に結婚したみたいだな」

ウエディングドレスを着て、隣にははじめがいて。こんな嬉しいことはない。

…いつまでも一緒にいたい。
このドレスをまた着れる日がくると、いいな。



「じゃあ最後にとびきりの笑顔で!」


サプライズフラッシュ!


(あの時の写真は色褪せないままーーー)


-fin-

『Quintet**』Hana様より

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