いつも見かける彼女の、黒髪が綺麗だと思っていたーーーー
雨上がり、少し背伸びをして。
名前
同じ風紀委員
1つ年上
…それくらいしか知らない。
でも、好いている。そんな気持ちで表すのが適切なのだろうか。
始めはただ、黒髪が綺麗な人だと思った。なまえさんを知るうちにもっと、彼女を知りたい、と思い始めるようになったのだ。
ーーーー朝はあんなに晴れていた空がいつのまにか曇り始め、大粒の雨が降ってきた。
そろそろ帰ろうかと玄関に向かうと、空を見上げため息をつく彼女を見つけた。
「なまえさん…?」
声をかけるとなまえさんは少し困った表情をして俺を見上げた。
「斎藤くん…!」
「どうかされたんですか…?もしや…」
「…そうなの。見事に傘忘れちゃって。こんな中帰りたくないなーなんて思いながらずっとこの状態」
「俺、傘持ってます。使って下さい。俺は走って帰るんで」
そう言って傘を差し出すと、返ってきたのは”大丈夫”の返事。
鞄を頭に乗せ、にこっと笑ってみせる。
「それじゃあ斎藤くんが濡れちゃうでしょう?」
「だったら…!!」
今にも走り出して行きそうな彼女を引き止め、傘を開き彼女の元へ寄った。
「俺が送っていきます」
ーーーーー彼女の肩がぶつかる度に、俺は何故この場にいて、何をしているのかと問いたくなった。
…好いている女が隣にいるだけでこんなにも心臓が速く動くのか。
「ねーえ、斎藤くんってば!」
「!」
隣を見れば頬を膨らませたなまえさんが覗き込んでいた。あれこれと考えているうちにすっかり話が抜けていたようだ。すみません、と告げるとまたムスッとした彼女が可愛らしい。
「斎藤くんって話しかけてもいつも生返事だよね!もしかして無理してる…?」
「え…?」
聞き返せばもう返事はない。…怒ってしまったのだろうか??そんなことを思えば彼女の長い髪が腕にぶつかる。いつもは下ろしている髪は高く上で結われていて。少しくすぐったい。
突然止まり出した彼女に合わせ、足を止める。
「斎藤くん、この辺でいいよ…?もう近いし斎藤くんに悪いよ…」
…俺が何か無理をさせてしまったのか。でもそんなことは聞くもんか。俺は無言で彼女の肩が濡れないように傘を傾けた。
「家まで送る。なまえさんが濡れたら意味がないでしょう?」
そんなことを言いながらも時間は止まってはくれぬ。しばらく歩くと見えてきたのは可愛らしい家。
「ここだよ。今日は本当にありがとうね」
「ああ…」
ーーー本当は、まだ…
「えっ…??」
振り向く彼女と目が合えば、自分が反射的になまえさんの腕を引き止めていたことが分かった。
「ど、どうしたの…?離して…??」
困らせたいわけじゃない。でも、もう後戻りはできないのだと悟る。
「離せません。まだ、なまえさんを離したく…ない、故に…」
「さいと…く?」
先ほどまで降っていた雨は途端に止み、周りには沈黙が走る。
…年上だとか、そんなのは関係ない。俺だって、背伸びをしても良いのではないか?
もう後戻りはできないのなら…
「俺は、なまえさんを好いている」
傘を放り投げ、彼女を自分の元へ引き寄せた。
-fin-
『Quintet**』Hana様より
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