一君ってさ、本当に口下手だよね。

その科白を、もう何度聞かされただろうか。
総司には幼き頃から事あるごとに言われ続け、その度に俺は沈黙を返してきた。

自覚は、しているのだ。

学業ではそれなりな成績を収めているし読書も趣味の一つである故、同世代の者と比べて語彙力が不足しているとは思わない。
だが、会話というのはそこに相手がいて初めて成立するコミュニケーションであり、一人でテスト用紙に向き合うのとは訳が違う。
人付き合いがそう上手くはない故に口下手なのか、それとも口下手であるが故に人付き合いが不得手なのか。
どちらにせよ、相手に合わせて言葉を選択したり、状況に合わせて気の利いた返答をするということが、俺はあまり得意ではない。
一方的に己の意見を述べるのは比較的容易だが、感情という曖昧なものを上手く伝える術を持ち合わせていないのだ。

そしてそれは、相手が彼女である場合において頓に顕著だ。


「あの子、僕と違ってそんなに君と長い付き合いってわけじゃないんだから、言わないと伝わらないよ?」

ジュースのパックに刺さったストローを咥えながら、総司が呆れた様子で腕を組む。
中身の残量が殆どないようで、パックは総司の顔の下でゆらゆらと揺れた。
放たれた言葉はあまりに的確で、行儀が悪い、と注意する気さえ奪われてしまう。

「……分かっては、いるのだが」

状況を理解し、さらにそこを打破する方法を知っていたとしても、それを実行に移せないならば意味などないのだろう。
一言、たったの一言だ。
今この場でなら、それこそ「ストローを噛むな」と同じくらい簡単に言える。
それなのに、彼女を前にした時のことを考えると、急にそれが困難な壁となって目の前に立ちはだかるのだ。

「全く。その調子だと、誰かに先を越されちゃうよ?」

ちらりと視線を送れば、そこには意地の悪そうな笑顔。
しかし言っていることはこれまた的を射ており、反論の余地などない。
総司の言う通り、このようなところで躊躇していては手遅れになってしまうだろう。

「ほら。分かったら早く言っておいで」

だが、と口ごもった俺の肩に触れた手。
そのまま背中を軽く叩かれ、自然と足が一歩前に出た。
慌てて首を捻れば、楽しげな、だが柔らかい笑み。
その表情に後押しされ、俺はようやく歩き出した。

向かうのは、そう、彼女のもとだ。


何と言って切り出せばよいのだろう。
歩きながら頭を捻ってみても、考えは一向に纏まらない。
自然に、気負うことなく。
そのようなことを意識している時点で、すでに不自然かつ気負っている証拠に他ならない。
そう理解していても、心拍数は上がる一方だ。
握り固めた拳の内側が汗ばむ感触も、まるで頭の中に心臓があるかのような大きな鼓動も、全てが思考の邪魔をする。

だが、総司の言う通りだ。
言わなければ、伝わらない。
そして、誰にも先を越されなくないのだ。


「……その、少し、よいだろうか」

声は震えていないだろうか。
不自然ではないだろうか。
ほとんど真っ白といっても過言ではない頭の片隅を、そのような憂慮がちらつく。

「どうしたの、斎藤君」

振り返った彼女の鈴のような声音に、頬が熱を持ったことを自覚した。
その顔を直視出来ず、思わず咄嗟に視線を逸らす。

「………その、」

予想通り、総司相手ならば容易に言えるはずの一言が、今は喉に絡み付いて出て来ない。

だが、これは本心なのだ。
心の底から、思っている。
彼女に伝えたいと、伝わってほしいと、そう願っている。
故に、どうしても一番最初に告げたい。


「………その、……お……、おめでとう」


そして願わくば、俺の好きな笑顔を見せてほしい。



どんな言葉で飾るよりも
- いつも、真っ直ぐに君を想うから -




祝 plastic smile様 サイト2周年&30万hits






『The Eagle』 城里 ユア様より。ありがとう。


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