「あーあ、やっぱり・・・」
心の底からため息をつきつつも、内心その寝顔にきゅんとしている私。
一階、南向きの校舎の角に位置する保健室は、日当たりが最高だと、生徒よりも常連なのは、先生。
校内放送で呼び出された原田先生が一向に起きてくる気配が無かったので、ベッドを仕切っている真っ白いカーテンをこっそりと開けた。
「原田先生?ちょっと、いい加減起きてくださーい」
うつ伏せに眠っている彼のがっちりとした肩をポンポンと叩いてみても、ピクリとも動かない。
「・・・原田先生をかくまってるって、また私までとばっちり食らうんですからね・・・もう」
羽織っている白衣が床に付かないように、ゆっくりとしゃがみこみ、ベッドに顎を乗せて彼の寝顔を見つめる。
整った顔立ちに、長いまつげが作る影が頬に落ちて、本当綺麗。
女の私も嫉妬するくらいに。
「・・・さのすけさん」
ぽつりと、彼の名前を呼んでみた。
寝てるなら良いかなって、ちょっとずるい私。
直接言う勇気なんてないから。
―――そう、思ったのに。
ぱちりと彼の瞳が開いたかと思えば、同時にゆっくりと動いた唇が、私の名前を呼んだ。
「・・・なまえ」
大好きなその声が、私の、名前を呼んだんだ。
「お、おおおお起きてたんですかっ!?」
「・・・・・・お前が起こしてくれるの、待ってた」
「は、はいっ!?」
驚き立ち上がった私の右手をギュッと握って、上半身を起こした彼は、乱れた髪を整えながら呟いた。
「いっつも、別に昼寝なんてしてねえよ」
「は・・・」
「お前の声聞いたり、仕事してる音聞きながら目を閉じて、幸せだなって、勝手に思ってたんだ」
いつも、私を見下ろしてる原田先生に見あげられるのは、何だかくすぐったくて。
それになにより、“幸せだ”と言った彼の言葉にドキドキして。
「原田、先生・・・・・・それ、って」
「分かんねえ?・・・・・・俺、お前に惚れてんだぜ?」
私の腕をぐい、とひいてベッドに座らせると、後ろからぎゅうと抱き締める。
「なあ、もう一回、名前呼んでくんねえか?」
「・・・さ、さのすけ、さん・・・・・・」
晴れのち、雨
バタバタと、土方先生が怒鳴りこんでくるまで、キスの雨はやまない。
END
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