「歳くん。ほら、また」

テストの採点が終わらないと、彼が家に持ち帰ってきた、私にしてみれば懐かしい答案用紙。

私とあなたが出会った高校時代を思い出して思わず笑みがこぼれる。

無意識に眉間に寄せてしまうらしい、彼のそのしわを人差し指でつついた。



ずるいひと



生徒たちが解放されたテスト期間最終日。

高校の教師をやっている、私の彼の歳くんは、帰ってくるなり答案用紙とにらめっこだ。

毎度の事ながら、生徒たちにちょっと嫉妬してしまう。

そっちじゃなくて。

私の方を見て欲しいんだけどな?

「どうぞ」

「・・・悪いな」

淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを受け取った彼は、肩をぐるりと回してほぐしていた。

「別に、今日中に終わらせなくても良いんでしょう?」

ふうふうと、自分のコーヒーを冷ましながら彼の隣に座った。

「まあな。・・・けど、良かれ悪しかれ、早く結果知りてぇだろうよ」

「ふーん・・・歳くんは優しいねえ?」

そう言うと、照れくさそうな顔してコーヒーに口を付けた。

「早く終わらせて俺も自分の事してえんだよ」

「・・・よし分かった、それなら私も歳くんを全力でサポートしてあげよう!」

「あ?」

立ち上がり、ソファの後ろに回り込んで、さっき彼が辛そうにほぐしていた肩に手を置いた。

「・・・・・・硬っ・・・!!」

信じられない。親指折れそうなんですけど。

「・・・仕方ねえだろうが」

きっと普段、真面目に働き過ぎてるんだろうなと思いつつ、彼の肩をもんでいた。

なんだかんだ「あ〜」と気持ち良さそうな声を出している。

「はい、もう一頑張りね!」

ぽん、と彼の肩を押すように、両手を置くと。



「なまえ」

「うん?」



背中をそらせて、ソファの後ろに立っている私の顔を、見上げた彼の、伸びてきた両手に頬を包まれ、そのまま―――




ちゅ、と、わざとらしく音を立てて離れた、唇。



「充電完了」




・・・・・・そういうとこ、すき。



END


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