「ねえ、何で風邪なんてひいてるの?」
「・・・なんで・・・総司が、居るの?」
かみ合わない会話は、きっと彼女の意識が朦朧としているせいだろう。
君は僕のもの
午前7時。
1限を取っていない金曜日のまったりとした朝の時間。もちろんまだ、まどろみの中。
耳元で鳴り出した携帯の音を、布団をかぶって遮ってみても、諦めてくれないそれは延々と鳴り続けていた。
僕はこのままでは目が覚めきってしまうと、ぼんやりとした意識の中で携帯を探り当てた。
『・・・・・・す、・・・水、分・・・』
「なまえ・・・?」
一瞬、聞こえた言葉は間違いではないのだろうか。
名前を呼んでも返事がないどころか、既に電話は切れていた。
どうしたのだろうかと、目を細めて着信履歴を確認してみたが、確かに聞こえた声の主と同じだった。
「・・・水分って」
まだ瞼が重たい僕は、寝返りを打って布団の温もりに包まれてしまおうと目を閉じた。
そう、一瞬閉じたのだけれど。
辛そうな声と、聞き間違いではないだろう“水分”という言葉に、おそらく彼女が風邪でもひいているのだろうと、むくりと身体を起こした。
「・・・・・・たまにはパシられてあげてもいいかな」
「なまえが呼んだんだよ?ねえ覚えてないの?」
合いカギを、持っている。
彼女の部屋に僕の着替えも少しある。
歯ブラシもある。
けれど僕らの関係は、幼馴染止まり。
「うそ・・・知らないし・・・」
「・・・・・・じゃあこれ、あげるの止めようかな」
そうして彼女の目の前に差し出したスポーツドリンク。
「す、水分・・・!!!!」
携帯越しに聞いたのは、やっぱり彼女の声だった。
へろへろと、布団から伸びた手は一瞬で力なくだらりと下がった。
「・・・・・・ちょっと」
「う・・・頭われる・・・むり・・・」
華奢な右手を額にあてて、辛そうに呼吸する彼女の、弱った顔を初めて見た。
「なまえ」
「ん・・・?」
「熱は?」
ギシ、とベッドに腰かけた僕は、彼女の額に置かれていた右手を取り、額に、自分のそれをくっつけて熱を測る。
「そっ・・・・・・!?」
「熱いね」
くっつけたままの額。近すぎて彼女の表情を上手く読めない。
でも、この距離はまずいかも。
自分から近づいてみたが、結局自分がドキドキしてる。
彼女の上に覆いかぶさって、良い匂いのする枕に顔を埋めた。
「総、司・・・?」
「・・・・・・お願いだから、早く治して」
「何・・・」
こんなんじゃ、キスも出来ない。
しんどそうな君に、無理はさせられない。
「・・・なまえの為にパシられてあげたんだからね」
「え・・・?」
汗ばんだ君の額を掌で拭って、ちゅ、と音を立ててキスをした。
「治ったら、教えてあげる」
さっきのペットボトルの蓋を開けて、うっすらと開いた彼女の口へと流し込んだ。
「・・・でさ、ぼんやりとしか覚えてないんだけど。あの時何が言いたかったの?」
すっかり元気になった彼女の部屋で、僕らは並んでテレビを見ていた。
格好をつけるのも良いけど、こういう方が僕ららしいと思うんだ。
「そろそろ、幼馴染やめようか?」
END
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