服飾の専門学校へ進学が決まっている私は、最後の学園祭でクラスの衣装係を買って出た。



おおかみおとこ。



「やっぱり斎藤くんってスタイル良いよね。こないだ採寸した時にも思ったけどさ」

「・・・そうか?」

放課後の被服室で斎藤くんの衣装チェック中。

着つけている衣装は、なんと狼男。

着ぐるみじゃないよ。ちゃんと私がデザインした、シュッとしてかっこいい狼男なんだから。

ちょうど学園祭の日程に被ったハロウィンに合わせたのだ。

表情を変えない彼は、何を考えているのか全く読めない。

同じクラスで斎藤くんと仲のいい藤堂くんは、あんなに単純・・・おっと失礼。

「あんたは、手先が器用だな」

立っている彼の前に屈んで、裾を調整しているところだ。

「・・・え?そう?」

そう言って私を見下ろした彼は、私の知らない顔をしていた。



・・・斎藤くん、笑うとすっごく綺麗。



「どうかしたか」

「え!?や、別にっ・・・・・・。器用って言われて、嬉しくて」

慌てて手元に視線を戻すと、ふわりと、頭に何かが触れた。

「え・・・」

「器用なのは、手先だけだな」

「なに・・・・・・」

手を止めた私の目の前にしゃがみこんだ斎藤くん。

「殊、恋愛においては、手こずりそうだ」

「どういう・・・」

「俺が、何故このような衣装を纏う事を了承したと思う?」

「・・・沖田くん達に、推されて・・・でしょ?」

「衣装を担当すると言ったあんたと、近づきたいと思ったから、と言えば?」

「・・・さ、」

その、何もかも見透かしたような、それでいて、自信たっぷりのその瞳は、私を真っ直ぐにとらえている。

簡単に沸点を突破した私の脳内。

心臓と同じくらいの速さでがくがくと震える両手。

「嘘、でしょう?」

「・・・そう、思うか?」

ぺたん、と床に力なく座り込んでしまった私。

だって、それって、嘘じゃなかったら―――

「・・・証明、できる?」

口の端をあげて笑った斎藤くんは、さっきの綺麗な顔とはまた違う表情をしていて。

それが、とても艶やかで。

私の両目を簡単に塞いでしまった彼の左手。

その手の温もりと、遮られた視界に、ドキ、とするよりも早く。




「ずっと、あんたが好きだった」



口付けを落としてきた、狼。




END


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