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「お、おかしくないかな・・・」

「全然!すっごく綺麗になった!」

先週買ったばかりの浴衣を二人で着付けていた。

全身を映してくれているその鏡には、友人のその言葉を聞いてはにかんだ私がいる。




『花火、行かない?』




そう誘ってくれた彼にただ可愛いって言って欲しくて。





ルーマー




夏休みが始まったばかり。

大学2年の私は、バイト先で知り合った総司に誘われて、高校時代の友人と有名な花火大会に来ていた。

人ごみはあまり得意ではないけれど、片想いをしている彼から夏の一大イベントに誘われては断れるはずもなく、むしろ二つ返事で承諾した。



「あ、居た・・・どうしようっ」

「ちょっと、自信持ってよ〜。私だってなまえ以外よく知らないし、緊張してるよ!」

「そうだよね、ごめんねっ」



働き始めた居酒屋は価格帯が高く、お酒の飲み方も分かっていない大学生が来れるような場所では無い。

けれど、従業員割りがあるのを良い事に、自分が休みの日に一度友人と飲みに行った。

総司に、会いたくて。



『あの子も連れておいでよ。僕も友達連れていくからさ』



その日、頻りに構ってきた総司がどういうつもりだったのか深くは考えていなかった。

初めて会う私の友人にもすごく話しかけてくれて優しいな、と思っただけで。

何だ、二人きりじゃないのかと肩を落としたけれど、もしかして、二人で会うのが恥ずかしいのかな?可愛い奴め、なんて思った。








「あ、なまえ!こっち」

私を見つけてくれた総司が、名前を呼んでくれる。ただ、それだけで嬉しい。

隣に立っているのはおそらく総司の友達だろう。少しふてくされたような顔をして、伸びた前髪の隙間からちらりと目が合った気がした。

何を思っているのか読み取れないその表情は、少し苦手かもしれない。

「・・・お待たせ」

切ったばかりの前髪を右手でなでながら、彼のもとへと駆け寄った。



「浴衣着てきたんだね。・・・可愛いじゃない」



街灯に照らされている総司の、緩んだ顔。

いつも冗談ばかり言い合って、笑いあってる時の顔とは全然違う。

細められたその綺麗な瞳に、ドキドキと、信じられないほどに胸が高鳴ってる。

だって、すごく、嬉しい。

「あ、ありがと・・・」

ニヤケた顔を見られてからかわれるのが嫌で、ふと顔を逸らした。




「久しぶり、#bk_name_3#ちゃん」

背の低い友人の顔を覗き込んで総司が名前を呼んだ。

どうしてかそれに、少しだけチクリと胸が痛くなる。

「こ、こんばんは」

人見知りの友人は、私の浴衣の裾をぎゅ、と握って総司が近づいた分距離を取った。

一度あった事があるとはいえ、仲良くなったわけではない。

さばさばとした性格の私とは正反対の彼女。

今まで彼氏ができたことが無いと言っていたのは、引っ込み思案なその性格のせいとしか思えない。私が男だったら絶対放っておかないのに。


「これ、一君です」

紹介された“はじめくん”は、こちらを見ようともしない。

「・・・・・・ちょっと一君、いい加減機嫌直してよ。子供じゃないんだから」

深くため息をついた彼は、組んだ腕をそのままにうなだれた。

「あんたには付き合いきれん」

「だから、嘘ついて連れてきたのは悪いって思ってるよ」

どうやら、勉強を見て欲しいと総司から珍しく声を掛けられ、それならばと合流してみればここまで連れてこられたらしい。

こんなに嫌そうにしている彼を、どうして無理矢理連れてきたのかと聞いてみれば

「だってさ、せっかく夏休みなのに遊びに行く予定が無いって言うんだよ?」

大学の夏休みという、人生で一番楽しい時間を遊びに使わないなんてと、思わず私も熱くなってしまった。

「え!何それ!はじめくん、駄目だよ!夏は楽しまなきゃ損だよ!」

「・・・な・・・」

初対面の私があまりに勢いよくそう言ったからか、驚いたらしい彼。やっと変化した表情。

「行こう!!始まっちゃう!!」

そうして、彼の腕を引いて歩き出せば、後ろで総司が笑ってた。

たぶん、友人はびっくりして口を開けてるに違いない。

「あははは」

僕らも行こうか?なんて声がして、後ろから二人がついてきた。



・・・・・・違うの。

本当は、あんまり恥ずかしくて総司を見て居られなかっただけ。

バイト先以外で会ったことなかったし、欲しかった言葉をくれて、ドキドキしちゃって。

“好き”の気持ちを再確認してしまった気がして。

あんまり傍に居たら、私の気持ちがばれてしまうんじゃないかと少しだけ臆病になってしまった。


「その、いい加減・・・手を離してくれないか」

「あ、わっ!ごめんっ」

「いや・・・」

言われるまでずっと、一君の腕を引いて歩いていた私。

でも、躊躇いもなくこう出来たのは、彼に恋をしていないから。

「ご、ごめんねっ」

「・・・あんたは、変わった奴だな」

掴まれていた腕をさすりながら、呟いた。

「え・・・ちょっ・・・何それ!」

少しだけ、ムキになって怒ってみれば、また彼の表情が変わった。




「・・・初めて会った気がしない」




最初は、ふてくされたような顔をしていたのに。

早く帰りたいと、そんな空気すら出していたのに。

ありきたりな口説き文句みたいなその台詞だって、彼に、似合ってしまう。

通り過ぎる街灯に照らされて、綺麗なその顔に陰影が出来る。

ふっと、笑ったその顔が、なんだかとても綺麗に見えた。

「どうかしたか?」

「べ、べつに、なんでも・・・一君も、変わってるなって思っただけ」

「褒め言葉として受け取っておく」

「ほら、変なの」

苦手かも、なんて思ったのに、ほんの数分で印象が変わった。



一君は面白い。


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