「ねえ、まだ終わらないの?」
「す・・・すみませんっ!」
気づけば時計の針は10時を指そうとしている。
もちろん、朝ではない。
私のデスクから見渡す視界には誰も座ってなんていなくて、ただ一人、私の後ろの席で、カタカタとキーボードを打っていた彼が、急に話しかけてきた。
私がそう謝ると、キャスター付きの椅子に座ったまま器用に後ろへと移動し、私の席の横まできた沖田さんは、背もたれに寄りかかりながら、横目で私の表情を伺うようにして黙っていた。
「すみません・・・・・・」
彼の目を見ていることができず、伏し目がちにそう答えることしかできなくて。
すると、はあ、と大きなため息が聞こえたかと思えば、ほら、と差し出された彼の手のひら。
多分、初めて見た。あまりガッチリとした体つきではないと思ってはいたけれど、やっぱり男の人だ。
私よりも太くて、長い指がなんだかきれいだなと、一瞬見とれてしまった。
「半分、貸して」
「・・・・・・へ・・・?」
「なに間の抜けた顔してるの?だから、手伝ってあげようとしてるんでしょ」
「や、でも・・・」
差し出していたはずの手のひらは、いつの間にか彼の頬に移動していた。
私のデスクの端で頬杖をつきながら吐き出された二回目のため息は、さっきよりも大きくて深かった。
「君さあ。これ以上僕の予定を狂わせないでくれるかな」
「す、すみません・・・・・・」
「この後飲みにでも行こうって、誘おうと思ってたのに、このままじゃ終電になっちゃうよ」
「え・・・?」
「あ、なに?むしろそれが目的?」
「なっ・・・なに言ってるんですか!?」
「さっさと終わらせて、二人でデート、行くか行きたいか、どっち?」
「行き・・・・・・え゛!?」
「はい、決定。ほら、早くして。時間なくなっちゃうよ?」
答えはひとつでいい
拒否なんて、させないから。
END
2014.04.09 はに
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