※短すぎてボツりましたが、せっかくなのでアップしちゃいました!
「・・・・・・綺麗だ」
そう、ふわりと優しく笑ったのは、みょうじ家に仕えて3年目の執事、斎藤一。彼は私の2つ年上。
眉目秀麗でスマートな彼に、残念ながら私は惚れてしまっている。
センチメンタル花嫁
何が“残念ながら”なのかと言えば、私は現在、お色直しの最中なのだ。
相手方が手配してくれたこの豪華な式場で。
私が戻るのを心待ちにしているだろう両親には申し訳ないけれど、本当は今すぐここから逃げ出したい。
「ん、ありがとう」
着替え終えた私に、彼は満足気に微笑んでいるけれど、私の心は穏やかではない。
愛しいあなたに攫って欲しいと思っているだなんて、言える筈もないだろう。
それは、この話を断り切れなかった私自身、良く分かっている。
せっかく愛しい彼に綺麗と言われているのに、素直に喜べない。
だって、これが終わればあなたと離れ離れになってしまうから。
「・・・行かなきゃ」
一つ、息を吐き出して、背筋を伸ばして鏡の中の私に言い聞かせる。
皆が待ってるんだもん。
向かった扉の前には、いつも扉を開けてくれるはじめが立っている。
音も無く、何事もスマートにやってのける彼なのに。
何でも、言われなくとも完璧にこなしてしまう彼なのに。
「・・・・・・どうしたの?」
扉の前で、じっとしたまま動かない。
「なまえ・・・」
いつもは私を“お嬢様”と呼ぶのに。
初めて呼ばれたその名前に、ドキリと心臓が跳ね出した。
「何故、悲しそうな顔をしているのだ」
「・・・・・・そんなこと、無いよ?」
「せっかく、あんたの美しさを引き立たせる衣装を選んでやったというのに」
―――誤魔化せるとでも、思っているのか?
す、と私の頬に触れたはじめの掌。
「この3年間、あんたをずっと見てきた。どんな時も一緒に居た。泣いている顔も、笑っている顔も。あんたの事なら、何でも知っている」
吸い込まれてしまいそうなその、澄んだ瞳を見て居られなくて、私は思わず目を逸らした。
彼に嘘は通用しないのだと、観念して本音を呟く。
「いいの。・・・お父様のためだもん」
そう言ってみれば、はじめのため息が聞こえた。
「・・・今日の為にあんたをより美しくしてくれと旦那様に頼まれ、徹底的に磨き上げたが・・・」
ぐい、と腰を引き寄せられて密着した身体。
「な、なに・・・?」
目の前の、彼の顔をドキドキしながら見つめてみれば。
「少々、やりすぎたようだ」
「・・・・・・んっ」
突然に奪われた私の唇。
それを理解した時には、重なっていた筈の彼の唇から、言葉が漏れていた。
「あんたは、俺が攫う」
「は・・・・・・な、何を言って・・・っ!」
「黙れ」
「だ、だまっ・・・!?」
「いいか、なまえ。己の進む道を間違えるな」
「ちょっ・・・・・・!わ、私の気持ちも知らない癖にっ勝手なこと・・・!」
「勝手だと?あんたが俺を好いている事くらい、既に承知している」
「・・・な、ななな、なんっ」
「先程言ったろう。あんたの事なら、何でも知っていると」
「〜〜〜〜〜っ!!」
なんてずるい笑顔で笑うの?
まるで全てお見通しで、最初からこうするつもりだったみたいに。
「あんたがなかなか言わぬ故、結局当日、式も始まってしまっただろう」
「い、言ったところで、今更・・・」
「言い訳など聞かん。だが・・・あんたの願いならば、何でも叶えてみせる。俺に、どうして欲しい?」
「・・・・・・私を、攫って?」
「かしこまりました、お嬢様」
END
(NEXT→あとがき 結依様へ!)
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