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結局、その日は友人からも総司からも、連絡が来なかった。
もしかして、二人がそのまま、私の想像している通りになってしまったらどうしようと、不安で眠れなかった。
一君に言われた通り、友人を信用しているつもりだけれど、こればかりは拭えない。
2日後、総司とシフトがかぶっている日。
いつもならニヤニヤが止まらないのに、今日は会いたくないなって思ってた。
営業中も、少しよそよそしく接する事しかできなくて、目を合わせるのが怖かった。
総司と二人、調理場スタッフへ「お疲れさまでしたー」と告げて店を出たのは午前0時過ぎ。
べったりとした夏の生ぬるい風に包まれた。髪にも服にも染みついた、タバコの匂いが攫われる。
人通りも少なくなってきた終電間際の駅前。
総司はいつも、駅まで私を送ってくれる。カラカラと、自転車を押しながら。
いつもはこの、たった5分間の幸せを噛みしめているんだけれど。今日は言い合えるような冗談も思い浮かばない。
あっと言う間についてしまった駅で立ち止まり、肩の位置で小さく手を振った。
「お疲れ様。ありがと」
「あのさ、なまえ・・・」
「うん?」
「・・・・・・#bk_name_3#ちゃんに告白したんだ、この前」
私の不安。
もしかして、身体を重ねてしまったんじゃないかと思っていた。
けれどそれ以上に、気持ちが友人に向いてしまったらどうしようって、それが一番、嫌だった。
何も言えずに立ち尽くす私に、照れた顔で話しだす総司が、少し嬉しそうなのが、苦しい。
「別に、隠してたつもりも無いんだけど。二人で飲みに来た時、可愛い子だなって思ってて、もう一回会いたくて誘ったんだ、花火」
ああ、ほら、やっぱり私、馬鹿だった。会いたいのは、私じゃなかったんだ。
「返事はすぐに貰えなかったんだけど、考えてくれるって・・・」
その、嬉しそうな顔の理由が、私じゃないなら、笑わないでよ。
「もう、いい・・・」
ぎゅ、と握りしめた掌。切り忘れていた爪が食い込んで少しだけ痛い。
けど、そんなの今は、この胸に比べたら、なんてことない。
「・・・・・・それ以上、言うなっ、ばか!!」
「は・・・」
「じゃあ、何で今まで私に優しくしたの!?どうして笑いかけたりするの!?なんで、可愛いって、言うの・・・」
「なまえ?急にどうし・・・」
もやもやした気持ちが連れてきた涙が、あふれだして視界を遮る。
「鈍感!!私だって、総司が好きなんだから!!」
驚いた顔も映せない。映したくない。
大好きなあなたが、私以外の誰かを想ってる顔なんて、見たくない。
「ばか総司っ!!!もう、知らない!!付き合っちゃえばいいでしょ!!」
「なまえ!!」
駅の改札まで、階段を駆け上る。
こぼれ落ちた涙を、掌でぐい、と拭う事しかできない。
もう、ぐしゃぐしゃだ。
顔も、心も。
追いかけて慰めてくれると思ってた総司は、いくら待っても来てなんてくれなかった。
「もう、やだ・・・」
誰かと話したくて携帯の連絡帳を開く。
私の今の気持ちをきっと分かってくれる・・・優しい、人。
“斎藤一”
「・・・・・・ぐす。は、一君」
『・・・どうした?』
落ち着いたその声が、ぐしゃぐしゃな私の心を沈めてくれる。
「あ、あの・・・・・・ひっく」
『泣いているのか?何があった』
「な、なんでも、ないっ」
『何でも無いわけないだろう。どこにいる?』
「・・・・・・バイト先の、駅。終電、無くなっちゃって」
『今から行くから、待っていろ』
「え・・・だから、終電なんてもう・・・」
『泣いてるあんたを、放っておけるか』
誰でもいい訳じゃなかった。
こんな酷い顔を見られても、別にいいと思ったのは、一君が優しいから。
私は、彼の優しさに甘えてる。
きっと一君なら、何も言わずに傍に居てくれる。
それだけで、今の私は救われるんだ。
会いたいよ。
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