(5/5)



「そうじゃないよ。いつも一人で居た君が気になってさ。

それに忘年会、飲み会なんて苦手そうなのに参加するなんて、余計気になって」

「あの日は・・・・・・帰ってくるなって、言われてたから」



ぽつりぽつりと、話しだした君の言葉を遮る事をしてはいけないと、僕は膝を抱えたまま君を見つめていた。



Act.05 解く




彼氏が浮気をしている事を知りながら、付き合っていたらしい。

それでも別れられなかったのは、その話を切り出すと暴力を振るわれるからだと。

良く聞く、最初はあんなに優しかったのに、というやつのようで、彼女もいつか彼が元に戻ってくれると信じ続けていた。

けれど、一向にエスカレートしていくそれのせいで、入院を余儀なくされた彼女はやっと解放されたらしい。

彼氏が犯罪者と言ったのは、その暴力のせいだと。実際、別れ話もできないまま、暴行罪で懲役刑。



そんな話を聞かされて、苛立つ自分を彼女に見せてはまた怯えてしまうだろうと、興奮する心臓を必死で抑えた。



「最悪ですよね、こんな・・・。身体とか、痣が消えなくて・・・」

浮かべた苦笑いは、初めて見たあの日の笑顔と違って、悲しそうだった。

「なまえちゃん、泣いても良いよ?」

「・・・だっ・・・、だめ、です」

瞳に貯め込んだ涙は、今にもこぼれ落ちそうなのに。

「本当は僕の胸を貸してあげたいところなんだけど・・・・・・きっと君は・・・また・・・怯えて・・・」

言葉が続かなくなったのは、目の前の光景に、頭がついて行かなかったから。

ぎゅ、と僕の腕に抱きついてきた小さな身体。

「なまえちゃん」

「わたしっ・・・ずっと、怖くてっ・・・いつ戻ってくるかと、そればっかり・・・」

抱きつかれた反対の手で、僕は君の頭に一瞬触れた。

びくりと、肩を震わせたけれど、拒まれている様子も無いから、そのまま君の頭を撫でてあげた。

「なまえちゃん、大丈夫、僕がついてるから」

ぐす、と鼻をすすりながら、ぎゅう、と抱きついてくる。

「沖田さん・・・」

「ごめんね、僕は約束を破っちゃったみたいだ」

ふるふる、と頭をふり、しばらくこのままで居たいと言った君の為に、僕はそのまま、痺れかけた右腕を、君に預けた。





泣きやんだかと思えば、既に感覚のない右腕は緩められているらしい。

コクリコクリと君の首が寝ている事を伝えてくれた。

「僕って、紳士かも」

そうこぼした苦笑いと共に、寝ている彼女を抱きかかえて寝室へと向かった。

ゆっくりと彼女をベッドへ寝かせ、ソファへ戻るために立ち上がろうとしたが、引っ張られる感覚のせいで、出来なかった。

何かと思えば、意外と強い握力で、僕の寝間着の裾を握りしめている君。

「これじゃあ赤ん坊だ・・・」

一緒に居たいと、言われている気がして、僕はそのまま、君を抱き締めて眠る事にした。

「うわ、・・・拷問」









「う・・・・・・ん・・・」

「・・・っ!」

「あれ・・・・・・あ、」

なんだか熱いなと思って目を開けると、目の前には、顔を真っ赤にしたなまえちゃんが僕を見つめていた。

「おはよ」

「・・・・・・」

「おはよう、は?」

「おはよう、ございます・・・」

偉いね、と僕は君の頭をなでる。

「んーーー!あ、やっぱ、おかしい」

縮こまっていた手足を思いっきり伸ばしてみたが、やはり重たい右腕。

すると、君がもうしわけなさそうに「ごめんなさい・・・」と言った。

「え?大丈夫、すぐ元に戻るよ。ねえ、それよりさ」

目の前で顔を赤らめている彼女を腕の中に閉じ込めて、ぎゅうと抱き締める。

「もう、君に触れても怒らない?」

「・・・・・・えっと」

「僕がこうしてるのは、嫌じゃない?」

「・・・沖田さんは、大丈夫みたいです」

「よかった」

君の腕を引いて一緒に身体を起こし、ベッドに二人座りこむ。

小さな彼女を後ろからぎゅうと抱きしめ、頬に軽くキスをすると、色白の細い左手を取って僕は言った。



「僕が君に指輪をあげたら、この薬指に嵌めてくれるかな」



「・・・・・・だ、だめですっ」

そう言う割に、僕の手を振りほどこうとしない彼女。

「どうして?」

「だ、だって・・・・・・ほら・・・つ、付き合ってからじゃないと」

ごにょごにょと、言葉尻をすぼませて、恥ずかしそうに呟く君を初めて見た。

「・・・あっははは!!なまえちゃん、君といるとやっぱり楽しいよ」

「笑わないでっ・・・」

目尻にたまった涙をぬぐいながら、僕は君の顔を覗きこむ。

「そうだね、じゃあ、お嫁さんになる前に、彼女になってくれますか?」





「・・・・・・はい」



やっと見れた君の笑顔。

少し泣きそうで、でも綻ばせたその表情は、何とも言えないくらい、可愛かった。



幸せなこの朝を、何度でも君と迎えたい。




君は、僕が守るから。





...HAPPY ENDING!



(NEXT→あとがき はじめ大好きママ様へ!)
prev next

back
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -