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結局あれから彼女を誘う事など出来ず、また同じ距離間で2ヵ月が過ぎた。
「沖田さんってどんな人がタイプなんですかぁ?」
僕は最近、“僕と一緒にランチ行きたい女子”に構っていた。
君が嫉妬の一つくらいしてくれたらいいと思いながら。
「沖田さん、絶対理想高そう!」
「そうかな?優しい子だったら好きだけどね。君達みたいに」
「「きゃあ〜〜」」
その耳障りな声を聞きながら、僕の瞳は君を探してる。
「沖田さん、元カノってどんな人ですか?」
「それ気になる〜!」
「・・・秘密、かな」
どうしてか面倒だなと思ったのが、彼女達の質問攻めのせいだと気付いた時には、僕の中に後悔しか生まれなかった。
―――僕は彼女達と同じじゃないか。
Act.03 確か
「なまえちゃん!」
「・・・はい?」
帰り際僕より先に席を立った君に、ちょうど会社を出るところでギリギリ追いついて後ろから声を掛けた。
振り向いた君は、いつもと変わらない。
「・・・この前、ごめんね?」
肩を並べて歩きながら君にそう言うと、思った通りの返事が返ってきた。
「・・・・・・別に、もういいですよ」
僕に刺さった冷たい視線は一瞬で、すぐに前を向いて歩調を速めた君。
「ねえ、ちょっと・・・待ってってば!」
彼女を逃がすまいと、思わず触れてしまった。
その細いなだらかな肩に。
言い訳なんて聞いてくれないかもしれないけど、悪気なんて無かったんだ。
ただ、君を見失うのが怖かっただけ。
「やっ・・・!!」
びくりと身体を震わせると、僕の手が一瞬触れたその肩を押さえながら、その場に蹲った。
「ご、ごめん・・・わざとじゃ・・・」
「っ・・・あ、ごめんなさい、ごめんなさい・・・ごめんなさいっ・・・」
「なまえ、ちゃん・・・?」
僕の予感はきっとあたってる。
こんなにも怯える君を、この腕の中に抱き締めてあげられない事が、たまらなく悔しい―――。
「・・・大丈夫、何もしないから、ね?」
「怖いっ・・・・・・う、」
大きく見開かれた焦点の定まらない君の瞳に、じわりと浮かぶ涙を拭うことすらできない僕はなんて無力なんだろう。
こんな状態の彼女を、誰にも見せるわけにはいかないと、僕は羽織っていたコートを慌てて彼女に頭からかぶせた。
二人の間を吹き抜ける11月の冷たい風に、僕は唇を噛みしめるだけ。
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