「・・・どうも」

アパート1階のコンビニまで土方さんを迎えに行った。

今がどういう状況であるのか、さっきの台詞はどういう意味だったのか。浮いたり、沈んだり。

「なんて顔してやがる」

不自然なくらい明るい蛍光灯に照らされて、スーツ姿のままの彼がこぼしたのは苦笑い。

「・・・・・・失礼ですね。生まれつきです」

ふてくされた私の顔を見つめた彼に、ほんの少しだけ口ごたえをしてみる。



だって、そうでもしないと私、今すぐあなたに抱きついてしまいそうだから。




episode7 "十三夜"





「そう言えば、どうしてウチがこの辺だって知ってるんですか?」

3泊するからと、ある程度片づけて家を出たのが幸い。

ガチャガチャと鍵を開け、どうぞと後ろに居る彼を招きいれながらまず一つ目の疑問をぶつけた。

「・・・・・・・・・あ?」

「え?」

靴を脱ぎかけた彼が、一時停止。

ついでに私も停止。

・・・・・・あれ?私土方さん家に呼んだ事あるっけ?

「・・・まあ、覚えてねえのも無理ねえか」

心の底からの深いため息を落として家へと上がった彼は、リビングのソファへ腰を下ろした。

首元を締め付けていた窮屈そうなネクタイへ人差し指を掛けて緩める。ねえそれ、たまんない。

「は!?質問の答えになってないんですけどっ!!」

「差し入れだ」

リビングのテーブルにガサ、と音を立てて置かれたビニール袋には、缶ビールとおつまみ達。

「だ、だからっ!今、会話のキャッチボール出来てませんって!私一方的に投げっぱなしなんですけど!!」

ほら、と一本を私に押しつけると、彼はプシュ、と良い音を立てて飲めない癖にビールを煽った。

「ちょっ・・・!人ん家で酔っ払うとか勘弁して下さいねっ!」

「っるせーな、素面で言えるかってんだよ」

口元を手の甲で拭いながら呟いたその台詞の意味を、聞きたくても少し怖くて。

土方さんの隣に座って「いただきます」と同じく缶ビールを開けた。





・・・・・・15分後。

いや、いやいや、早すぎでしょうよ。・・・缶ビール(おそらくまだ半分以上入っている)を握り締めたまま、無言。

「あの、土方さん?・・・目、据わってます・・・」

このままでは、彼は酔っ払うために家まで来た事になってしまうと話しかけてみれば、

「あぁ!?」

「こ、怖いですって・・・ちょっと・・・ち、近いっ」

隣に座る私にガンを飛ばすが如く、至近距離に顔を寄せてきた。

「あ、あの・・・一回、一回落ち着きません?」

「落ち着いてられっかよ」

「は・・・・・・」








私を見つめたまま、持っていた缶をテーブルにコトリと置くと、顔の前で彼を制していた両手を解かれ強引に唇を塞がれた。

もちろん。彼の、それで。









“どこにも、行くな・・・・・・”



ほんの一瞬の間に、頭の中で反芻される彼の言葉達。



“―――待ってる、からな”



自分の都合の良い様に解釈をしてしまう。



“・・・遅ぇよ”



一方通行なんかじゃないって、期待してしまう。



“だからそれを、終わらせに来た”





あなたと私が、想い合ってるんじゃないかって―――









「好きだ、なまえ」





荒々しいキスの後、呼吸を整える事もしないまま囁いた彼の言葉が信じられなくて。



「嘘」


「こんな嘘、あるかよ」


「じゃあ・・・もう一回言って?」



「好きだ」



「もっと」



「・・・好きだ」






幸せの涙が温かいって、思い出した。





「・・・私も」





バクバクとはち切れそうな心臓だって、どうでも良い。

もしこれが、夢でも、いい。

そっと彼の頬を両手で包みこんで、今度は私から唇を寄せた。

一瞬だけ、触れて離れれば、追いかけるようにもう一度、彼が私にキスを落とした。





「土方さん。私も、大好きです」




私を見下ろす彼にそう告げれば、頬をムニ、とつねられて「可愛すぎんだよ、てめぇは」と嬉しそうに笑うから。


心がくすぐったくって、私も思わず笑ってしまった。




「忘れてなんか、ねぇよ」

「え?」

「酔ってお前に電話かけた事も、言った言葉も。全部覚えてる」

「じゃあ、何で」

「・・・・・・何でも何も、てめぇが勝手に勘違いしたんだろうが」

「・・・は、はあああ!?ちょっ、なん・・・・・・」

「良いから、少し黙ってろ」




全部全部お見通しだったんだ。

私が彼を好きな事も。

ドキドキしてる事も。

言って欲しい言葉も。

・・・ずるいなあ。



もう一度、優しく落とされた口づけの後で。

あなたが真剣なまなざしでささやくから、まだ、ドキドキしてる。






「・・・抱いて、良いか」

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