「ひ、土方さんはぁ、ぜったい家庭的なタイプの女の子が好きらと思います」

終盤、私はかなり酔っ払っていた。ビール4杯、サワー3杯。いつもならもう少しいけるんだけど。

「おい、大丈夫か?」

「・・・私、家庭的じゃないし。料理だって上手くないし・・・仕事しかできません」

記憶が曖昧だから定かではないんだけれど、カウンターに突っ伏していた私の頭をなでてくれていた気が、する。

「お前はそれで十分だ」

「でも!やっぱり、好きな人には、ごはん作ってあげたりとか、したい、じゃないですかぁ・・・・・・ああ!ちょっと!もう、何で!?」

「もう、その辺で止めておけ」

飲みかけのレモンサワーのグラスを取り上げられて、ちょっとだけふてくされたっけ。





episode6 "ポロメリア"




―――・・・遅ぇよ



何その、優しい笑顔。

疲れているのと、びっくりしたのとで、手放した私の大荷物は、ドサリと床に転がった。




もう、ぐちゃぐちゃだ。




「みょうじ?」



鼻の奥が、ツンとする。



「どうした?」


そんなの、あなたのせいに決まってる。

会いたかった、ずっとずっと会いたかったあなたが、目の前に居るんだもん。



「何、泣いてんだよ、てめぇは・・・」

呆れたような声と、ため息交じりのその言葉。

ぽろぽろと、こぼれ落ちた私の涙をさらうみたいに、頬に触れた親指は、ぐい、とそれを拭ってくれた。


「鼻水は自分でどうにかしろ」


あわてて、垂れていたらしい鼻水をすすって、未だ渇きを知らないその瞳で、彼を睨みつけた。

「・・・やっぱり土方さんは土方さんですねっ!!」

「何、訳の分かんねえこと・・・」

「良いですっ!分かんなくたって」

ごしごしと、真黒に焼けた腕で涙を拭って、ドキドキして損した、と転がってる自分の荷物に手を伸ばした。


だって、雰囲気ぶち壊し。


きっと覚えていないんだ。酔っ払って電話かけてきた事も、その時自分が言った言葉も。

俺の傍にいろだとか、どこにも行くなだとか。口説き文句みたいな台詞吐いたくせに。

「・・・・・・ずるい」

「なんだ?」

「なんでもありません。私、忙しいので失礼します」

今にもぽきりと心が折れる音が聞こえそうなのは、決して担いだ大荷物のせいなんかじゃない。

「おい、みょうじ!」

「・・・・・・お疲れ様です」

私を呼ぶ、あなたの声は大好きだけど。

大好きなんだけど、今はどうしてかイライラしかしない。

私だけ一人で悶々として、盛り上がって、じたばたして。



ねえ、あなたは思わなかったの?私に会いたいって。



大きな荷物が他の人にあたらないように慎重に歩いて、事務所を出た。

「みょうじ!」

わざわざ、追いかけてなんて来なくていいのに。

「用事があって、来たんじゃねえのか」

エレベーターを待つ私の背後から、土方さんの、少し苛立った声が聞こえる。

「・・・・・・ありましたよ?何もなくて来るわけないじゃないですか」

「じゃあ何・・・」

「もう、済みました」

そう、私が言った瞬間、ちょうどたどり着いたエレベーターに乗り込むと、重い荷物のせいで、少しだけぐらりと揺れた。

「・・・・・・あなたに会いに来たんです」

エレベーターが閉じる瞬間にそう言った。

眉間にしわを寄せて私を見つめていた彼が、その時どんな顔をしたかなんて、分からない。

重たそうに、ゆっくりと閉じた無機質な扉。



「ああ、もうっ」



再び歪んだ視界を元に戻そうと、私はまた、真黒に焼けたその腕で、目をこすった。









「もう、その辺で止めておけ」

飲みかけのレモンサワーのグラスを取り上げられた。

「一人で帰れなくなるだろうが」

「いいです、べつに。私みたいな酔っ払い、だれも構ってはくれないんです・・・ふん」

「おら、帰るぞ。・・・・・・送って行く」








そのまま真っ直ぐ家に帰って、荷物を片づけることすら億劫だった私は、ベッドにそのまま横になって眠っていた。

別に、かかってきた電話に出るつもりなんてなかったのに。



『みょうじ?お前の家、この辺だと思ってたんだが』



枕元で震えたうるさい携帯で目を覚まし、慌てて手に取り通話ボタンを押してしまった。




「・・・・・・・・・・・・は?」



間違いなく、彼の声。



『だから、近くまで来てんだ、口頭で良いから案内しやがれ』

間の抜けた声を返すと、ちょっとだけ苛立った彼が上から目線でそう言った。

「ちょっ・・・!?は、はあ!?あの、聞きたい事が山ほど・・・」

『それは、この後直接話すでいいだろうが』


ため息を、一つ。


「・・・・・・本当、私、あなたに振り回されてばっかりなんですけど」







『だからそれを、終わらせに来た』






―――終わらせに?




それって、どういう意味ですか?

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -