初めて見た彼らのライブは、新人とは思えないほど。

リズム隊(ドラム・ベース)が安定しているから、かな?

すごく自由にのびのびとボーカル君が歌えるのも、キーボード君の変則的なアドリブも。

本当に結成したばかりなの?なんなら、これから私が行くフェスに飛び入りして欲しいくらい―――



episode3 "流星群"



誘ってもらった打ち上げに参加できないのが残念で仕方がないけれど、彼らのライブを4曲だけしか見られなかった事がもっと残念。

「ごめーん、お待たせ!」

慌てて事務所へ戻った私は、後輩君の運転で、これから7時間車移動。

「どうだった?ライブは」

助手席に乗っていたのは、私の隣のデスクの同僚。

企画の話を土方さんに持ちかけられた時に御愁傷さまと笑ったあいつ。

「ちょっと!!あんたこれ聞きなさい!!」

土方さんから貰った音資料を入れていた音楽プレイヤーを車に接続してスピーカーから流してやった。

さっきライブを見てきた私にはちょっとだけ物足りなく感じてしまったけれど。

「・・・面白そうなバンドだな」

「面白いって言葉で片付けないで!もうね、あの子たち、すぐだから!すぐ売れちゃうから!」

「はいはい。みょうじ、寝ておけな」

「もーー!!この想いを共有できないなんてっ」

くやしい。くやしい。それに、興奮して眠れない。

暗い外の景色は、車の窓に私をはっきりと映し出す。



―――私、すごく楽しそうな顔してる。



土方さんの言う事成す事、どれもいつだって、正解なんだ。

彼の勘は相当良い。それだけじゃない。ちゃんと見分ける目も耳も持っている上に、

そういうバンドに引き付けられるのか、引き寄せてるのか、出会えてしまう事が羨ましい。

私にはそんなの、絶対出来ない。

だから最初は、土方さんに憧れて、土方さんみたいになりたいって思った。



『お前はお前でいりゃいいだろうが。俺は俺にしか務まらねえ』



よくよく考えればすっごい偉そうなこと言ってるけど、酔っ払ってた私には、その言葉がガツンと響いたんだ。

それで、土方さんの考え方とか、生き方とか、仕事に対する思いだとか。

いろんな事を聞いて、私は憧れていた彼を、好きになっていた。



『俺はお前の、意外と素直なところが好きだ』

『い、意外とってどういう意味ですかっ!?』



本当は、その『好き』ってどういう意味ですか、って聞きたかった。

でも恥ずかしくって聞けるわけなんて無くて。それにその解答を聞く勇気なんて無かった。



「・・・・・・はあ」


ボーっと外の景色を眺めながら、土方さんの事ばかりを考えていた私。

ふと、助手席に目をやると、気持ち良さそうにいびきをかきながら寝ている同僚。

運転席では、後輩君が頑張って運転してくれていた。

「ごめんね、交代するからちゃんと言って?」

「いいっスよ。・・・・・・それよりみょうじさん。今、恋する乙女の顔、してましたよ」

バックミラー越しに目が合うと、面白い物を見たような顔して笑われた。

「し、失礼っ!!もう、あんたのこと心配して損した、寝る!!」



―――ヴーッヴーッ


「あ、」

鞄に入れていた携帯が震えていた。

こんな夜中の2時に、一体誰・・・・・・




【土方 歳三】





ドキ、ドキ、ドキ。



メールじゃない。



電話だ。





・・・・・・どう、しよう。



さっきの“ありがとう”を思い出して、鼓動が跳ねる。




「・・・もしもし?」

『・・・てめぇ、どこでなにしてやがる!』

「は、はいいっ!?」

電話口で怒鳴られる意味が全くもって分からない。



―――さっきの私のドキドキを返せっ!!



『ほ、ほらあ、だから飲ませない方が良いっていったじゃんか!』

『ええ?自分で飲んだんだよ?』

『総司が水だと言って勧めるからだろう』

『ていうか、どんだけ下戸なんだ土方さん』

「え、えっ!?何!?」

『おい!聞いてんろか!?』



や、やだっ、呂律回って無いっ!酔ってるっ!かっ、可愛いとか言ったら怒られるかもしれないけど・・・・・・可愛いっ!


「ひ、土方さん?どうしたんです?」

『どこに、居るんだって聞いてんだ。せっかく打ち上げ、誘ってやったのに』

「は、はあ?だ、だからっ私、移動がっ」

『言い訳してんじゃれえ!・・・お、お前はっ、俺の側に、居ればいい、だろうがっ』




―――な、なに?




『どこにも、行くな・・・・・・』



ねえ、土方さん、何の冗談?それとも、本心?


やめてよ、会いたくなっちゃうじゃない―――

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