「・・・・・・・・・」

ああ、もう、お腹痛い。

なんなんだろうか。

突然やってきて、じっと私を見つめたまま一言も発さないとか、この人一体どうしたいんだろう。

穴あきますよ、私。



episode15 "キラ星"



「みょうじ」

「は、はいっ!?」

その視線が痛くて心の中で悪態をついていれば、急に名前を呼ばれたのに驚いて、ほんの少し声が裏返ってしまった。

「忘れ物」

「え・・・?」

スーツの内ポケットから取り出されたのは紙切れ。

「いらねえか?」

なんだろうかと伸ばしかけた私の手をかわすように、ひょい、と私の頭の少し上に掲げてニヤリと笑った。

なんとなくそれにムキになってしまって、ほんの少し背伸びをして彼から強引に奪い取り、その紙切れを広げてみると、間違いなく私の会社の宛名での領収書。

「・・・・・・うそ、何、なんでっ!?」

手元の領収書と土方さんを交互に見やると、あからさまにため息をついてしょうがないなって顔しながら、私の頭をクシャりと撫でた。

「てめえがぐずぐずしてやがるから貰っといてやったんだ」

そこに記載されているのはもしこれが自腹だったらと恐ろしくなる金額で。

領収書を手のひらに挟んで、拝むように「ありがとうございます」とペコリとすれば、私の頭を、今度は優しく撫でるから、くすぐったくて「何ですか」と言おうと顔をあげると、

「・・・みょうじ、俺も忙しくてな」

「そう、でしょうね・・・?」

「もう行かねぇと・・・・・・」

「わざわざ、すみません・・・本当に、・・・・・・っ」



続く、“ありがとうございました”を言わせてくれなかったのは。





―――なっ・・・!?





不意打ちのキスを落とした彼の唇が離れていくのが、ものすごくスローモーションに見えた。

こんなに堂々と、いや、周りに人がいなかったから出来たのかもしれないけど。

それにしても、こんなの、どう考えたって、ずるいと思う。





「あ・・・あの・・・っ」

「領収書はお前の忘れ物で・・・・・・今のは、俺の忘れ物だ。・・・じゃあな」

「・・・・・・っ、ま、待って!ひじ・・・・・・と、歳、さん」

「・・・・・・ばっ」

きゅ、と後ろから彼のスーツの裾を握ってそう言えば、真っ赤な顔がこちらを向いた。

あんまり恥ずかしいから、たぶん聞こえないだろうなってくらい、小さな声しか出なかったから、そんな真っ赤な顔、見れると思わなかった。

稀に見るその顔に、私のほうがなんだか恥ずかしくなって思わず目を逸らしてしまって、でも捕まえていたくて、握っていた手にちょっとだけ力を込めた。

「い、いいっ・・・こっち見ないで良いから、あの・・・・・・いつも、飲みすぎて覚えてなくて、本当、ごめんなさい・・・」

彼が心配してくれてるんだろうなっていうのは、前々からわかってはいたけれど。

沖田くんから聞かされた私の行動はたぶん、土方さんにとっては、わがままで、どうしようもなくて、いらいらしたりするんだろうなって思った。

それなのにちゃんと、こうして領収書をもらってくれたりとか、わざわざ届けてくれたりとかしてくれちゃうあたり、ああ私、この人にちゃんと愛されてるんだなってわかるから。

「だから、あの・・・・・・えっと、」

思ってることがちゃんと、言葉になってくれなくて。

こっちを見なくていいと言った私の言葉に従ってくれたのか、前を向いたまま彼は、その背中で私の言葉を聞いていて。

でもやっぱり、どんな顔してるのかは気になってしまう。

続かない言葉に、少し焦ってしまった私を落ち着かせてくれようとしたのか、握っていたスーツの裾から手が解かれて、大きな彼の手と、絡まった。

その手が伝えてくれる温もりはすごく、優しい。

「別に、酒飲むの止めろとは言わねえよ」

「・・・・・・え?」

「ただ、他の男の前で飲む時は気を付けろって言ってるだけだ」

落ち着きかけた私の心臓は、また、彼の言葉によって速さを増してく。








『・・・・・・可愛すぎんだよ、』

『か・・・・・・あははは!私、私がですか!?やだぁー!・・・・・・っ、痛い、痛い〜!もう〜!』

ケタケタと、お腹をかかえて笑う私の頬は、彼の指につままれて引っ張られた。

正直、酔いのほうが上回っていたから痛さなんてあまり感じていなかったんだと思うけど。

『・・・なまえ』

『なあに〜?・・・ふふ、怖い顔してるー』

眉間に寄ったそのシワをつついてやろうと伸ばした人差し指は、彼の左手に包み込まれてしまった。

『なまえ』

『・・・・・・はい』

急に真面目な顔をして黙り込んだ彼に、怒られるんだろうかと、少しだけ怖くなってそう返事をすれば、ゆっくりと、私の顔を覗き込むように近づいてきた彼の唇に、

『ちょっ・・・・・・ま、まって!!』

『・・・んだよ』

『えっと、お酒くさい、から・・・』

そう伝えると、盛大なため息をついた彼は、私の額に軽くキスを落とした。





『・・・・・・俺は、我慢するのは別に苦じゃねえ。けどな、我慢させられんのは、得意じゃねえんだ』

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