楽しい時間は本当にあっという間。 特にライブはいつもそうだ。 やばーい、たのしかったね、かっこ良かったね。 そんな会話が周りから聞こえる中、私は腕時計をチラリと見やった。 ・・・左之さんの言う通りだ。30分押し、アンコールまでやるとだいたいこのくらいだから、と言われていた時間ぴったり。 待ち合わせは、少し離れたコンビニで。 友人には予定があるとだけ伝えて会場を後にした。・・・もちろんニヤリと笑われたけれど。 あと30分。片づけて挨拶して、ちょっと遅くなるかな、そんな事を思いながら私は適当に雑誌を開いた。 クリスマスのデート特集とか、そういう雑誌はとりあえずスルーして。 今日という日にライブをすることについて、私はなんとなく分かっていたつもりで居た。 「どっかでな、聴いててくれるんじゃねぇかなって。きっと応援はしてくれてるって思うくらいは、許してもらえるんじゃねぇかなって」 ご両親には、一周忌の時に会って以来らしい。未だに距離はあるけれど、その距離を自分から縮めるのは違う気がすると言っていた。 親しくなればなるほど、余計にお互いの悲しさは増す気がする。だからこそ、これくらいの距離が一番妥当なんじゃないかと。 「・・・なまえに似合いそうだな」 「・・・!?!?!?!?」 突然の聴き慣れた声に驚き、バン!と大きな音を立てて雑誌を閉じた。 まさか見られているとは思わなかったし、こんなに近くに来るまで気がつかなかったなんて。 「なあ、さっきの、」 「い、いいいい、いいんです!!ほら!早く行かないと!」 もう一度雑誌を開かせようとした左之さんの背中を押しながらコンビニを出た。 「そんなことより早かったですね?、打ち上げ、大丈夫だったんですか?」 「ああ。俺もタイミング見計らって抜けようと思ってたんだが、マネージャーが既に居なくてそれならって出て来ちまった。 一応挨拶周りはしたらしいから何も文句は無いが、あれは完全に、女だな」 「へえ・・・・・・。イケメンですもんねー?モテそう」 「・・・俺より?」 「っ!!!?またそういうっ!!」 「あははは」 左之さんみたいに、好きだよとか褒めたりとか、言葉にするのがどうしても苦手だ。 だから時々こうやってわざと言わせようとしてくるけれど、それにすら乗れない。 本当はとても大好きで、すごくかっこいいと、誰よりも愛しいと、思っているのに。 新幹線で一時間ちょっと。時刻は23時を少し過ぎたところ。 「左之さん、雪!!積もってる!」 「そっか、お前は東京生まれだからあんまり見ることないもんな」 寒さに身体を震わせて、一瞬で白んだ息。東京よりもとても空気が冷たい。 冷たいけれど、嫌な寒さでは無い。指先を温めるように、ほうっと息を吐きだした。 「・・・悪いな、こんな夜中に連れまわしちまって」 「いえ。左之さんと一緒なら、平気です」 ほら、と差し出された手。 そう言えば、手を繋いでデートをすることも今までほとんどなかったもんな。 お家にいるか、バーに行くか。出掛けたとしてもライブを見に行くことがほとんどだから、二人で手を繋いで歩くなんて。 「・・・千晴さん、気分悪くしないかな」 「・・・! ありがとな、そんな風に考えてくれて」 なんとなく、辛そうな顔をさせてしまった。そういうつもりはなかったんだけど――― 「え、左・・・」 「俺が、こうしてたい。そんなら、文句ねえだろ」 「・・・・・・っ」 優しい。 優しい。 優しい。 私はただ、小さく頷く事しか出来なかった。 本当、優しい。 ・・・大、好き。 駅前でレンタカーを借りた。 繋いだばかりの手を離すのは少し嫌だったけれど、二人でドライブなんて。 否、そんな浮かれていいような目的ではないのに。でも。 ドアを閉めた二人だけの空間に、私はそわそわとしていた。 これからご挨拶に行くからなのかもしれないけれど。 ぽつりぽつりと並ぶ街灯を、同じリズムで通り過ぎる。 枝には寄り添うように真っ白い雪がついているのが見えた。 「・・・っと、たしか、この辺」 赤信号、ハンドルを抱き抱えるように前のめりになって左右を確認する。 「ん、よし合ってる」 目印でもあったのだろう。左折してまたしばらく直進すると、一面真っ白な中にぽつりと何かがあるのが分かった。 決して大きくは無かったけれど、街灯の光でぼんやりとお寺の瓦屋根が見えてきた。 ・・・あそこに居るんだ。 3台しか停められない小さな駐車場。 タイヤが新しい雪を踏む音がする。 「よし、気を付けて降りろよ。雪かきされてねえみてえだから」 「・・・はい」 そっと足を降ろすと、ふわりとした雪の感触。 ぎゅ、っと雪を踏みしめた。 そうして車のドアを閉めようとした勢いで、足を滑らせたのに気がついた時にはもう、遅かった。 「なまえっ!?」 「や、あの・・・び、びっくり・・・」 『・・・・・・ふふふっ』 ・・・・・・ん? 「大丈夫か?」 何か聞こえたような気がするけど・・・と辺りを見回してみても左之さんしかいない。 気のせい、かな?と、差し出された左之さんの手をとり立ち上がる。 「・・・え、あ・・・あの、はい・・・ありがとうございます・・・」 『ふふ、可愛い』 「・・・・・・へ、」 「どうした?」 「〜〜〜っ!!!え、ええ!?!?!?」 そうだ、見間違う筈が無い。写真で見た彼女の笑顔とまったく同じ。 背の高い街灯に座っている彼女は、この季節には似合わない真っ白なワンピースを着ている。 『あれ、見つかっちゃった』 「ち、千晴さんっ、え!?」 驚く私の視線の先に目を凝らして一生懸命見ていた左之さんだったけれど。 「なあ、お前霊感とかあんのか?」 「え、や、あの、そんなもの全くないんですけど、あそこにっ」 「・・・・・・そっか、居るんだな」 「左之さん・・・?」 「俺には、見えねえわ」 episode24 "悲しみジョニー" なんて、意地悪な運命。 prev next |