二人、ベッドに横になって、私は彼の腕の中でずっとドキドキしたまま。

急に押し寄せてきた幸せの大きさにまだ、気持ちが追いついていない。

何を話すでもなくただ、左之さんの手はずっと、私の髪を梳いていた。

飼い猫にでも、なったみたい。




「・・・左之さん、」

「ん?」

「ひとつだけ、気になってることがあるんですけど、聞いても良いですか」

「なんでも聞いていいぜ?」

「あの時、名刺・・・渡してくれたのって、どうしてですか?」

私の質問を聞いた原田さんの手が、ぴたりと止まった。

もしかして、その頃から、私のこと気にしてくれてたのかなって―――

「・・・・・・っ、あーーー、」

今度は自分の前髪をかきあげてくしゃくしゃと頭を掻いた。

「いや、カッコ悪いかもしんねぇけどな・・・・・・あの時、ちょっと焦ったんだ」

「え???」

私の額をそっと撫でて、口づけると、ぎゅうっと抱きしめた。

「ほら・・・なんだ・・・、土方さんの名刺貰ってただろ」

「え?ああ、そう、ですね、」

実行委員とマネージャーさんは、日程や細かいやりとりなどをしなくてはいけないからと名刺を貰った。

でもそれは、私だけではなくて、先輩もだ。

「お前と土方さんが連絡取ってんの想像したら、負けてらんねぇって、勝手に・・・」

「・・・・・・!?」

「珍しく余裕なくなってる自分に、カッコ悪いって思ってたんだ。結果、なまえから連絡もらえてすっげー嬉しかったんだぜ?」

「は・・・え!?」

意外すぎて私はただただ、目を丸くした。

だって、だって。

あんなに送るのをためらって何時間も悩んで作ったメールを、彼は喜んでくれていて。

彼からのメールにも私はものすごく喜んで。

・・・あの時勇気を出してよかったんだ。

逆に、あの時メールをしていなかったら・・・、こんな風になれなかった可能性もあるわけで。

だからそれが、小さな奇跡と奇跡が重なったみたいな気がして、胸の奥がじわじわと熱を帯びてきた。

「その頃からたぶん、お前のこと好きだったんだろうな」

優しく私の頬を撫でて、恥ずかしげもなくそう言った彼。

気持ちが通じ合ったこと。今まで私が、左之さんのことを考えていた日々に、彼も私を考えていて―――。

お互いの日々にお互いの存在があって。

そう考えたら、すごく心がくすぐったい。


「・・・好き、だったんだ」

「・・・・・・左之さんはずるいです。さらっとそういうこと言っちゃうから」

「あっははは!俺にしてみりゃ、お前のほうが何倍もずるいけど、な?」

「・・・???」

「今のそのとぼけた顔も・・・声も、すべすべの背中も、可愛い胸も、」

「はっ・・・!?」

「全部、全部可愛いから、お前のほうがずるい」

「ま、また・・・!」

私の反応をみてにやにやと笑う。

心臓がいくつあっても足りないかもしれない。

・・・だって、これからこの人と恋人同士で、私の彼氏で、彼女は私で・・・・・・う、うわっ・・・うわうわうわっ・・・!?

考えていたらとんでもなく恥ずかしくなって、布団にもぐりこんだ。







気が付けばいつの間にかいい時間になっていた。

気恥ずかしくなりながら、先に左之さんがベッドからでて服を着るのを横目で見ていた。

「なんだ?」

「・・・・・・な、なんでもないですっ・・・!」

引き締まった身体に、見惚れてた。

「お前がなんでもないっていう時はなんでもあるんだよな〜、これが」

どうして、私そんなにわかりやすいかなあ。

それとも、左之さんが私のことをよく見ていてくれているってことなんだろうか。

「どうした?時間、あんまり遅くならない方がいいだろ?」

「・・・・・・私も、着るのであっち向いててください」

「俺のはガン見してたのにか?」

「も〜〜っ!!気づいてたんじゃないですか!!」

「あっははは。一服してくる、その間に支度しておけな」

怒っても可愛いな、なんて言いながらベランダの扉をカラカラと開けた。

そして私は、なんだかふにゃりと力が抜けてしまって、もう一度枕に顔を埋めた。



幸せすぎる今が、本当に現実である。

嘘じゃない。

何度も夢見た、それ以上に、幸せだ。



そして枕から左之さんの匂いがする。



・・・・・・ああ、やだ、帰りたくない。

ずっと一緒に居たいよ。








送ると言ってくれた左之さんの言葉に少しだけ甘えて、駅前まで。

そこから先はさすがに一人でも帰れるし、地元の駅で間違って親にでも見つかったらと考えただけでも恐ろしい。

「ありがとうございました、」

「気をつけてな」

「・・・・・・じゃ、じゃあ・・・」

「ああ」

小さく右手でバイバイして、改札へ向かおうと階段を上ろうとしたのだけれど。

突然後ろから腕を引っ張られて何事かと振り向けば、ごそごそとポケットから何かを取り出した左之さん。





「今日が、お前にとって特別になってると嬉しい」





「・・・・・・え・・・?」





するりと、はめられた指輪。




「誕生日、おめでとう」




まるでプロポーズみたいだ。



なんで知ってるんだろう、私の指のサイズを。






それから、耳元で囁かれた言葉に、爆発してしまいそうなほど心臓がバクバクして倒れるかと思った。





―――本当は、帰したくない。





episode21 "ランデブー"




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