“ねえ、どうだった!?”

翌朝届いた友人からの、たった一言のメール。

きっと瞳をキラキラと輝かせているんだろうなって、顔を見なくてもわかる。

けれど、彼女が期待しているであろう事は何一つなかった。

“何も無かったよ。ごめんね”

キスをするわけでも、まして手を繋ぐわけでもなかった。

だから、ごめん。

・・・私はただ、どきどきしてた。




episode14 "あめふりヒヤデス"




ガタン、ゴトンと揺れる電車。

2限目の講義にあわせ、ゆっくりと家を出た。

電車は空いているけれど、昨日眠れ無さ過ぎたせいで、今座るのは危険だと、扉の前で流れる外の景色をぼんやりと眺めてた。

だって、あんなメールもらったら眠れないに決まってる。原田さんは一体、どういうつもりなんだろう。



“いつ二十歳になるんだ?”



お酒が飲めるようになったらまた行きます、と伝えた返事。

早く会いたいと思ってくれていると解釈して良いだろうか。

そんなの、都合が良すぎるだろうか。

けれど、深く考えすぎてがっかりしたくない。

だからとにかく、彼の質問にだけ答えようと返事をした。



“実は、学園祭のライブ当日なんです”



本当は、その日のライブを、自分への誕生日プレゼントにしようとこっそり考えていた。

でも、わざわざ自分からアピールするようなものでもないから黙っていたけれど、聞かれたら答えるしかないし、隠す意味も、嘘をつく理由もない。



“なんだ、もうすぐじゃねぇか。楽しみだな”



それは、ライブが?

それとも、私が二十歳になるのが?

それとも、私に会えるのが・・・?



ぎゅっと抱きしめていたクッションに顔を埋めて、思いっきり叫んでおいた。








学園祭の打ち合わせに彼らがやってきたとき、それはもう大学中がざわついたのは言うまでもないだろう。

原田さんはというと、一度来たことがあるくせに、わざと初めて来たというようなリアクションを見せつつ、私の方へ“内緒だからな”と、そんな笑顔を向けてきた。

彼にとって私の存在がどの位置なのかわからないけれど、“特別”なんじゃないかって嬉しくなって、私も思わず笑顔を返した。



「ここがステージになるグラウンドです。音響と照明はあっち側で、後ろに見える3号館側にステージを設置する予定です」

会議室での打ち合わせを終えて、実際に場所の確認をとみんなを外に連れ出した。

「すっげーー楽しみ!」

「野外のライブって初めてだから、ちょっと音の響き方が心配かな」

はしゃぐキーボード君とは正反対に、真面目に先輩の話を聞いているボーカルさんが実はちょっとだけ意外だった。

ステージでは割とゆるい人だなって思っていたから。でも、その様子から、本当に楽しみにしてくれてるんだってわかってなんだかくすぐったい。

思い切って声を掛けて良かった・・・。

「そうですよね、聞くのとやるのじゃ大違いかも。でも、今回の音響さんは野外フェスも経験されてる方なので、大丈夫だと思います。ただリハについてはさっきお話した通り―――」

来年は私もこうやってみんなを引っ張っていけるようになれたらいいな、なんて思いながら先輩が説明しているのを聞き入っていたら、急に肩を叩かれた。

振り向けば、ニコっと笑った原田さん。

「・・・はい?」

「なまえは二十歳になったらやりたいことって、何かあるか?」

「は・・・え、あの・・・」

急に問われた質問の答えに迷っていると、真横から聞こえてきた斎藤さんの声。

「・・・左之」

そうして、じとっと原田さんを睨みつけたその瞳に私は思わず息を飲んだ。

それなのに原田さんは余裕の笑顔を浮かべて、彼の頭に手を伸ばした。

「なんだよ。楽しめ、斎藤!」

くしゃり、と頭を撫でられた斎藤さんが、やれやれ顔でため息ひとつ。

ああなんだ、本気で怒られたのかと思ってヒヤヒヤしてしまった。

お互いがお互いのことちゃんとわかってるんだ。

仲良しでいいなあ、そんな風に思ってその様子を見ていただけだったんだけど。


「・・・なんだ?お前もやって欲しいのか?」

「・・・は?え、ちょっ・・・」


今度は私の頭を撫でて、満足げに微笑んだ。


「楽しみにしてろよ、な?」


ニコッと笑ったその顔に、どこまでも、落ちていく。



どきどき、どきどき。



私に触れた大きな手。

あの日、額にぴたりと触れたのと同じ温もり。

自分の顔が火照っていくのに気が付いて、髪を整えるふりをしながら俯いた。

こんな分かりやすい態度、原田さんは気付いているだろうか。



・・・楽しみにしてろ、なんて―――



「・・・何を、ですか」



私も、ずるいのかも知れない。

彼が何を思っているのか。

その想いの先を、知りたくて。

もっとちゃんと、言葉にして欲しくて。

横目でチラリと彼の表情を確認すれば、ばちりと目があって驚き結局目を逸らす。


ねぇ、今の、私の横顔をずっと見ていたってことで、良い?



「何をって、学園祭当日、だろ?」



ああ、だめだ。

火照って緩んだ頬を、すぐにどうにかするなんて不可能だ。

本人が横に居るのに―――。



つまり、私の誕生日を楽しみにしてろ、ってこと?



こうやって思わせぶりに、いろんな女の子に同じことしてんのかな。

それとも、私だけなのかな。

あなたの特別で、居たいな―――






自分が思うほど大人でなんてまだないけど、二十歳になったら、少しでもあなたに近づけるかな。



すぐそばに居る、すぐそこにあるその手を繋ぎたい。

そう思いながら、今はただ、ぎゅっと手を握り締めるだけ。



できることなら今度は、私からあなたに、触れたい。

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