原田さんと大学で偶然(・・・結果、私が仕組んだようなものだけれど)会ってから、今まで以上に彼のことを想っている自分。

もしかしたら手をつないだりとか、もしかしたら腕を組んだりとか。それから。



・・・キス、をしたりだとか。



そんな、行き過ぎた妄想をしてはずっとドキドキしている。



episode12 "ストロベリータイム"




「だ、だからね、どうしたら良いのかなって」

休日、友人に原田さんとの事を話していた。

一通り話し終えた私の言葉に呆れたような彼女は、ランチセットのコーヒーを飲み干すと、テーブルでもひっくり返しそうな勢いで立ち上がった。

「・・・・・・・・・知るか!!!」

「え、え、え!?ちょっ・・・!ねえ〜〜!」

そうして店を出ようとする彼女を追いかけなくてはと、私は慌ててお会計を済ませた。



・・・・・・あ、あれ、わたし奢らされてる!?




結局、友人に追いつくと、一瞬本気でイラっとした、ごめんねと謝られた。もちろんランチ代も払ってくれた。

「だから、もう告っちゃえば?」

ショッピングモールの大学生に人気があるアパレルショップにふらりと入った友人がそう言った。

「え!?待って、どうしてそうなるの!?」

「あ!これ可愛・・・くないね、なんでさ、こう甘く仕上げたがるかな〜」

綺麗に畳まれていたシャツを広げて自分に合わせながら、おそらく裾のレースに文句をつけているのだろう。

私は正直洋服よりも原田さんとのことをどうにかしたいのだと、店内を見て回る彼女について歩いた。

「だからさ、日程違うの知っててわざわざ大学来たんでしょ?そんなの、あんたに会いに来たに決まってるじゃない」

「会いに・・・・・・や、え!?だって、そんなの・・・」

「あ、これ、なまえ似たようなの持ってるよね?」

そうしてラックにかかっていたワンピースを私にあてた。

・・・白いワンピース。確かに持ってる。・・・・・・ああ、そう言えば、原田さんに似合ってるって言われた―――あのとき、実はすごく嬉しかったんだ。

誰でも良い訳じゃない、たぶん原田さんだから嬉しかったんだ。そうでなければ、こいつチャラいな、とかそんな風に思ったはずだし。

彼のまとっている大人の雰囲気とか、なんか色気みたいなのとかが、そう思わせたんだろうか。

「案外、あんたから告白されるの待ってるかもよ?」

「そ、そんなわけっ・・・」

「・・・・・・たっくさんファンが居るからね、別になまえじゃなくても良いのか」

ワンピースをまたラックに戻しながら彼女が、なんだか楽しそうに笑っていた。

「・・・う・・・、そうだよね、」

その通りだ。

正直、私じゃなくたって、女の子はたくさんいる。あんなにかっこよくてモテそうな人が、私なんかを相手にしていること自体奇跡なんじゃないか。

「ごめんごめん。まあ、だから、両想いの確率は高いよねってこと」

さっきから、友人の言葉に振り回されてばかりだ。

もしそうだったらとまた胸が高鳴りだす。

隣の店に移動すると、店頭のマネキンが着ていたスカートが可愛いと、値段を確認していた。

「うわ、高っ・・・で、連絡先もらったの、なまえだけなんでしょ?」

「わ、わかんない、私が知らないところでもらってる子がいるかも知れないし・・・」

「はーーー、なんでそんなマイナス思考なわけ!?」

ずっと服ばかりを見ていた彼女が、急に私の顔を覗き込んだ。

「だ、だって・・・!」

自信がないのは、“恋人”という存在を知らないから。

もしかしたら、と、そんなわけない、を繰り返すのも。

どうやって進むのが正解なのかわからない。

「でも、その話聞いてると、原田さんはなまえのこと、他のファンの子よりも好きだと思う」

「・・・そう、かな」

「あ!ねえ、行こうか、原田さんのバー!」

思い出したように、今度は目をキラキラとさせながら友人がそう言った。

「名刺せっかくもらったんでしょ!?私も最近ライブ行けてないし、原田さんがどんな目でなまえを見てるのか知りたくない?」

「や・・・だって、そんな急に・・・それにわたし、まだ未成年・・・」

「相変わらず真面目ー。わたしは二十歳になったもん。行こう!私が飲むから、大丈夫でしょ?」

正直、一人では行けないと諦めていたから、飛び跳ねたいくらいうれしい。

さすがにこんな場所ではと、私の代わりに心臓が跳ねた。

「と、突然行っても大丈夫かな・・・?」

「当たり前じゃない!お店なんだから、お客が来たら嬉しいに決まってる」

彼女の、前向きさを本当に見習いたい。

「よし!じゃあ、今からちょっと大人っぽい服買いに行こう!」

「え!?」







友人は私を着せ替え人形のように、次から次へと気になった服を試着させた。

あーでもない、こうでもないと、専属のスタイリストができたみたいでちょっと嬉しくなってしまった。

たぶん私一人ではこんな風に動くことなんてできない。待つことしか知らない。

「何、そんなに楽しみなの?ニヤニヤしちゃって」

「え?うん、それもあるけど」

本当に彼女みたいな子が友人で良かったと、そうだな、今日の帰りにでも伝えよう。



気が付けばもうバーのオープンの時間が迫っていた。

電車を乗り継ぎ、もらった名刺の住所を頼りに携帯の地図を開いた。

「ここ、だ」

地下の階段の横に設置された看板は、名刺と同じロゴが入っている。

どうしよう、どうしよう。

勢いでつい来てしまったけれど、本当に迷惑がられてしまったら、嫌われたら―――

「なまえ!」

「い、いひゃい〜〜」

「しゃんとする!ほら、自信持って!可愛くしてあげたんだから」

「う、うん」

友人について、薄暗い階段をゆっくりと降りた。

そもそも、原田さんが居るかどうかもわからない。

けれど、こんなに緊張していながらも、やっぱり彼に会いたいと、居ることを願っている私。



どき、どき、どき。



扉の窓からちらりと中を覗くと、カウンターには知らない人の姿。

・・・ああ、なんだ、今日お休みなのか。

やっぱりものすごくがっかりとしている自分。

・・・会いたかったな。

「本当、居ないみたいだね?」

「うん。ねえ、帰ろ・・・・・・」

「あれ、なまえか?」

「・・・・・・っ」

階段を降りてくる音。

そして、呼ばれた自分の名前。

信じられない。どうしよう、どうしたらいい?

だって、ほら、また。

こんなにドキドキしてる。

この前大学で会ってから、そんなに経っていないけど。

ずっとずっと会いたいと思ってて。

あなたに、焦がれてたんです。



「よくわかったな」

「え、えっと・・・はい」

「なあ、飲みに来たんだろ?あ、大丈夫、ノンアルコールのうまいやつ、作ってやるよ」

「あ!私は二十歳なので、アルコールがいいです」

「はは、了解。ほら、入れよ」

歓迎、してくれている、と思って良いらしい。

私の巡らせていた不安はとりあえず思いすごしなのだとわかって安堵した。

けれど、おかげで余計にドキドキとしている。




いつかこの想いが、あなたと寄り添えれば、すごく嬉しい。




原田さんが開けてくれた扉をくぐって、私達は彼に案内されるがまま、カウンターの席についた。

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