―――お前の事、好きだ。




「なまえ・・・・・・?なまえってば!!!」

「っあ!?は、はいい!!!」

「何ぼーっとしてんの!?」

「ご、ごごごめ・・・」




いま私、平助の事、考えてた?




episode4 "ロマネ"




この間のクリスマスライブの後、“お疲れ”の一言ですら、目を見て言えなくて。

どうしてか急に挙動不審になってしまった私。他のメンバーがフォローしてくれたから何とかなったものの。

これじゃあ、惚れましたって宣言してるようなものだ。

「あれ?なまえじゃん!」

「・・・・・・え、はあ!?な、なに!?なんでっ!?」

私の頭の中を、最近これでもかと言うくらい支配している本人が突然目の前に現れた。

一瞬、幻覚何じゃないかと瞬きを繰り返した。

「俺らもここのスタジオ使ってんだよ」

年が明けて現在、2月に突入したところだ。

私は結局、彼氏とはそのまま付き合っている。

クリスマス以来、不意打ちのその対面に、私はまた、平助の目を見られずに目を泳がせる事しかできない。

「どした?顔真っ赤だけど、風邪?」

こんなに分かりやすい反応をしているというのに、どんだけ鈍いんだ、この男は。

「・・・・・・ってぇ!何だよ左之さんっ」

彼の声に驚いて顔を上げると、原田さんに頭を叩かれたらしい平助が、後頭部をさすりながら文句を言っていた。

「ばーか」

「????」

訳が分からないと言った風に、ちょっぴりふてくされる平助は、口をとがらせて拗ねている。





会わなければきっと、大丈夫だと言い聞かせていたが、結局、会わずに居ても考えるのは平助の事ばかりだった。

彼氏と二人で居る時間だって。

「なまえ、最近ぼーっとしてるけど、何かあった?」

「え?・・・そ、そう!?年末のだらけ切った空気がそのままなだけかも、あ、あはは」

「ふーん・・・」

この間、彼と一緒にちょっと遅めの初詣に行った時。

あの時平助に告白された言葉とか、抱きしめられた時の優しさとか思い出しちゃって。

それに、甘えたくなってる自分が居る事に、どうして良いか分からなくて。

「・・・・・・あのさ」

「ん?」

私が立ち止まったせいで、繋いでいた手がするりとほどけた。

「・・・もしね、もしもの話だけどね」

「うん」

「・・・もし私が、別れたいって言ったらどうする?」

「何の冗談?そんなこと、あり得ないから。ほら、行こう」

「・・・・・・うん」

その台詞。

私が平助に心揺れていなければ、きっと嬉しくて彼を抱きしめていたと思う。

私を愛してくれているんだって、そういう事でしょう?ねえ、それならはっきりそう言ってよ。

今まで彼からそんな言葉、聞いたことなんてない。







「なまえ」

「わっ!?ちょ、もうっ・・・急に何!?」

「何が急だよ、ずっと話しかけてんのに無反応なのはそっちだろ」

「え、あ・・・ごめん」

きっと、平助たちも休憩なんだろう。

スタジオの受付にあるソファに座っていた私の横にやってきて彼は私の顔を覗きこんだ。

「・・・・・・久しぶり、だよな?」

「・・・ん、そう、だね」

どうしても、平助の顔を見ることができない。

ドクンドクンと、さっきからうるさい鼓動は、余計に速度を増している気がする。

「なあ、連絡先、この前効き損ねちゃってさ、聞いて良い?」

断る理由が見つからない。私は、コクンと頷くと、携帯を取り出した。

「やった」

嬉しそうに笑う、その笑顔が眩しくて。

ねえ、本当に、私で良いの?

「なあ」

「ん?」

「・・・別にさ、期待してる訳じゃないし、彼氏がいるのも分かってるけどさ」

―――なに?

「その、ほら、2月ってさ。大事なイベント、あるだろ」

「・・・もしかして、バレンタイン?」

「義理でも良いから!」

両手を顔の前で合わせて、私に必死でお願いする平助。

やっぱりその、素直なとことか、表情豊かなとことか、いいなって思っちゃう。

「ぷっ・・・あはは!何それ、モテない男子の台詞じゃん!!」

「ばっ・・・!ちげーよ!好きな女の子から貰ったら一番嬉しいだろ!?俺は、お前がいいの!」




―――私が、いい?




「・・・平助は、ずるいと思う」




「え?」

「なんでもなーい。わかった、義理でいいならあげる」

「さすがなまえ様!!」

「・・・チロル決定だけどね」



義理だって、約束したのに。

そのスタジオの帰りに、本屋でお菓子の本を立ち読みしている自分に、相当参ってるなって、苦笑い。



ねえ、平助。そう言えばさ。

チョコ、あげるなら、また会わなきゃいけないよね?

もしかして、それの約束だった?私に会う口実だった?



・・・・・・私も、会いたい。

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