episode3 "夜明けのBEAT"



「ごめん。・・・・・・私、彼氏居るんだ」




大きなその瞳を、逸らす事無いまま、驚いた顔の平助は固まっていた。

彼の横顔を、ツリーに飾られた電飾が染めていく。

何を言われたわけでもないのに、私は必死で言い訳を探している。

「・・・・・・か、隠そうとか思ってたわけじゃないし!ほら、タイミングが無かったっていうか。別に平助の事、嫌いって言ってる訳じゃないよ?

今日だって、話してて楽しいって思ったし、気を遣わずに居られて楽だったし、もっと・・・知りたいって・・・」




「・・・そんなん言われたら、諦められるものも、諦めらんなくなるって」




一瞬、悲しそうな顔で私を見つめた彼は、ギュッと私を抱きしめてきた。

包まれた腕の中は温かくて、優しくて。私を落ち着かせてくれるんだ。

「・・・・・・平助」

「あーーー、悔しい!」

「え?」

「絶対俺の方がお前の事幸せにする自信あんのに!」

平助は、優しい。

「・・・ぷっ、なに、その自信、どっからくるの?」

重い空気にならないようにしてくれているんだと思う。

「だって俺、お前の事、すっげえ好きなんだぜ?」

ぎゅう、と抱きしめる腕に力を込めて耳元で囁いた。

「わ、わかったから」

その、大きな瞳が私の顔を覗きこんだかと思えば、額をコツンとくっつけて、彼は言った。

「なまえ・・・・・・」

「うん?」

「キスしたい」

「は!?ば、ばかっ!!何言ってんの!?彼氏居るって言ったでしょ!?」

「だって、じゃあお前、何で逃げないわけ?」

「え?」

「彼氏いるなら、他の男の腕の中でじっとしてて良い訳ないだろ?」

「そん・・・・・・」

「ちょっとでも、可能性あるって、思っちまうだろ」



“そんなわけない”

“私は彼の事を愛している”

“だから、あなたは友達”



浮かんだ言葉を口に出せないのは、きっと本心じゃないから。

嘘をついてしまう事になると思ったから。

“もっと、一緒に居たい”

それがきっと本心。でも、どうしたらいい?

彼氏の事も好きだと思うけど、じゃあ、今のこのドキドキは?



―――わかんないよ。




「ん・・・やべ、一君から電話・・・」

ごそごそとコートのポケットから携帯を取り出して慌てて電話に出る平助から、一歩、距離を取った。

「もしもし・・・・・・わ、わかってるって!いま!もうすぐ戻るから!はい、はい、じゃあな」

怒鳴られたらしい彼の携帯から、相手の声が漏れていた。

携帯をまたポケットにしまうと、彼は私に自信満々に宣言した。








「惚れさせるから、逃げんなよ」








「・・・っ」

年下みたいに可愛く笑うだけかと思ってた。

なのに、どうして?今度は年上の余裕の笑みみたいな、その顔。

私、何ドキドキしてんの?

「わ、私、彼氏居る」

「何そのカタコト。ガイジンか」

「う、うううっさいな!!」

「あはは、真っ赤!早く戻らねえと一君にまた怒鳴られるからな、行くぞ」

「え!?ちょっと、平助!!!だめだって」

「いーの!」

嬉しそうに笑いながら、私の手を取って走り出した平助。

言葉では拒んでも、身体が言う事を聞かない。



彼と居る時、こんなに幸せな気持ちになる事、あったかな。

尽くすばかりで、私、何かもらえるもの、あったかな。

私、ちゃんと愛されてるのかな。






「告られたあ!?早くない!?」

「こ、声大きいってば!!」

楽屋に荷物を置きに戻ってきた私。平助は出番だからとすぐにステージ袖へ機材を持って行ってしまった。

既に戻ってきていたメンバー二人にさっきの事を相談すると、目をキラキラさせながら食いついてきた。

「彼氏居るってちゃんと言った?」

「もちろん言った!!!」

「そしたら、何て!?」

「・・・・・・ほ、惚れさせるから、って・・・」

「「きゃああああ」」

「っだ、だから、声大きい!!!」

「あんな可愛い顔して、言うねえ〜」

「そろそろ出番じゃない!?ライブ見ようよ〜!」

ほら、行くよ、と引きずられて私は客席へと移動した。

正直、最初は見る気満々だったライブだけど今はあんまり見たくない。

だって、きっと見たら好きになる。

本気で、平助の事、好きになっちゃう。


外との温度差があり得ないほど、熱気がこもっている客席では、女の子たちが今か今かと彼らの出番を待っている。

セッティングのためにステージに出てきた彼ら。暗転している状態でも、客席から飛ぶ黄色い声援に笑顔で応える。

私の隣にいた女の子たちが声をそろえて、『平助ーーー!!』と呼んでいた。

飛び跳ねながら一生懸命手を振っている彼女たちを見つけて手を振り返していた平助が、ちょうど隣に居た私に気付いたらしい。

目があった、そう思った瞬間、ニカ、と笑ってピースサイン、だ。

隣の女の子たちがまたきゃあきゃあいってはしゃいでる。

「・・・ちょっと、絶対今のなまえに向けてたでしょ?」

こそ、と耳打ちしてきたメンバーに違うよ!と反論しようとした時。

完全に落ちた客電。なり出したSE。沸き立つ会場内に、私もテンションが上がる。


始まりの合図を告げる、ボーカルさんの右手が上がった。

原田さんのドラムカウント。綺麗にそろった4人全員の出だしと、歌いだし。

完璧すぎて、鳥肌が立った。

それから―――リハと違いすぎる。




その時、彼氏の事なんて頭の中に無くって。

ただただ、楽しそうに演奏する平助を、じっと見つめていた。





やばい、絶対惚れる・・・・・・てか、惚れた。


かっこ良すぎるんですけど。


責任取れ、ばか。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -