ライブを終えて袖にはけると、平助が声を掛けてくれた。

「お疲れー!」

「超緊張した〜〜〜!!」

「いやー、あの満員の中よくやったと思うよ?」

確かに、だ。

クリスマスだというのに、みんなライブなんかに来ていて良いんだろうか。

まあ、見渡す限り女の子ばかりで、正直平助達見たさに来ているのが伝わってくる。

こんなにたくさんファンが居るなんて、すごいなって思うと同時に羨ましかった。

でも私達はギャルバンだから、女の子のファンが増える事はあまりないけれど、少しでも今日のステージで伝わると良いな。



episode2 "Sugar!!"



楽屋まで私についてきた平助を、人懐っこい子だと思った。

数時間前に出会ったばかりで、こんなに懐かれるのは初めて。そう無いと思う。

共同の大きな楽屋には、先に戻っていたメンバーと、他に出演者さんが少し。

「ところでさ、なまえこれから時間空かない?」

「ん、空くけど・・・ご飯食べ行こうかなって思ってた」

「じゃあさ、一緒に飯行こうぜっ!」

「あ・・・っと、私メンバーと・・・」

「・・・・・・それって、俺と二人で行くに変更って、無理?」

最初は、まともに目も合わせてくれなかったのに、少し話したら急にこんなに砕けてくる。

彼のキャラクターがそうさせるのか、別に嫌だとは思わなかった。

同い年という事もあって、きっと話も合うだろうし、好きな音楽の話とか、したい。

そう悩んでいれば、会話を聞いていたメンバーが

「なまえ、行っといでよ?私たち二人で行ってくるし」

「え、ごめん、ありがとう」

「・・・クリスマス、だけどね?」

「・・・・・・は!?」

そ、そうだっ!クリスマスだった!!!!

え、クリスマスに男子と二人で食事って、友達同士で有り!?

ていうか私、彼氏居るんだけど・・・・・・あ、あれ、なんか複雑。

彼と会えないのに平助とご飯食べに行くって・・・。

「なまえ?」

メンバーに言われた一言で、どうしようと急に焦り出した私の思考を知らないだろう平助が、ひょこっと顔を覗きこんできた。

「わ、」

「いこうぜっ」

・・・・・・まあ、良いか。

この笑顔に、裏なんてないだろう。

「あ、うん、行くよ。行くけど、ごめん、ちょっと着替えたいから・・・」

「・・・わ、悪ぃ!裏口で待ってるな!!」

いくら冬だとは言え、ライブの後は汗びっしょり。

湿ったTシャツをひらひらとして見せれば、ちょっと赤くなった彼は慌てて出ていった。

ふう、と一つため息をつくと、後ろから女子モードになったメンバーが楽しそうに話しかけてきた。

「ちょっと、あの子絶対なまえのこと狙ってるって!」

「そうだよっ、彼氏居るってちゃんと言わなきゃ!」

「はっ!?う、うそだぁ」

平助が、私を?

だって、今日会ったばかりだよ?確かに、可愛いとは言われたけど、そんなことって、ある?

私自身、一目ぼれなんてした事が無いから、その気持ちが全く分からない。

相手の中身をちゃんと見ないと、好きになれない。

確かにイケメンを見ればかっこいいなと思うけど、好きとは違う。平助のも、それじゃないの?




「ご、ごめんっお待たせ!」

結局、メンバーに絡まれたせいで、20分近く待たせてしまった。

「全然っ!何食う!?俺も腹ごしらえしないと最後まで持たねえし」

「えー?そうだな、やっぱ鶏じゃない?」

「クリスマスだしなっ」

ニコっと、太陽みたいに明るい笑顔が似合う彼は、無邪気で年下みたい。

「クリスマスだし、ね?」

「そういやチキンって、何系の店行けば食えるんだ?」

「・・・ああ!い、イタリアン?あれ、でもクリスマスってアメリカの行事だっけ!?」

「し、知らねえ!焼き鳥で良くねぇ?」

「あ、私焼き鳥超好き!」

「よし、決定!」

今日、初めて会ったとは思えない。

彼の隣は、居心地が良いみたい。気を遣わずに、ちゃんと“私”で居られる。



「う、めえ・・・」

「やばい、何この破壊力・・・最高に美味しいんだけど」

別に、調べたわけでもない。ただ、ふらりと入ったお店が空いていたから決めただけ。

「大将!同じの頂戴!」

焼き鳥はカウンターだろ!?と、陣取った大将の目の前の席。

「あはははっ、平助、常連みたいになってるっ!オヤジかっ」

思わず、隣の平助の肩をバシッと叩き突っ込みを入れる。

手もとのコーラが日本酒だったら、最高に面白い。

「オヤジってなんだよ!?失礼だろ!」

そう言いながらも、笑顔を向けてくれる。

何だろう、彼のペースに引き込まれて行く。

「なまえ、レバー食える?」

「超好き!!」

「やったっ俺も!好き嫌い激しいじゃん?こういうのって」

「えー?私焼き鳥で嫌いな部位なんてないよ」

「ていうか、なまえ好き嫌い無さそうだよな」

「うん、無いっ!」

平助と一緒に居るのが、すごく楽しいと思ってしまっている私。

正直、彼氏と居る時は可愛い女の子で居なきゃって、一生懸命自分を作って頑張ってる。

嫌われたくないと思うから。こんな、焼き鳥屋に入りたいなんて、絶対言えない。



「ごちそうさまー!」

「ごちそうさまでしたー!」

お店の大将に、酒が飲めるようになったらまた来いと言われた。

「平助、時間平気?」

「あ、うん、まだあと1時間くらいある」

「戻る?」

「いや・・・・・・あのさ、駅前のツリー見に行かねえ?」

「え、うん・・・・・・良いけど」




『あの子絶対なまえのこと狙ってるって!』



そんなわけ、無い。

違う、違うと言い聞かせるのは、そうでもしないと平助を好きになってしまうかもしれないって気付いたから。

居心地の良い彼の隣に、このまま飾らずに居られたら良いのにって。

もちろん、今の彼氏の事を嫌いな訳じゃない。告白したのも私。

バイト先の、5つ上の男の子。大人っぽくて、かっこ良くって、スマートで、優しい。でも・・・理想が高い。

私に「なまえはこうでしょ?」「それ、なまえらしくない」といちいち言ってくる。

だから、彼の理想を保とうとして、気付いたら自分を作り上げてた。

別にそれを自分で辛いなんて思った事無かった。大好きな人に尽くすのも幸せだと思っていた。




「うっわ、超キレーじゃん!」

「本当だね・・・」

輝く電飾と装飾が、ただの1本の木を美しく魅せている。

周りには、幸せそうに寄り添うカップルとか、友達同士の女の子たち。

カメラを向けられて、嬉しそうにツリー自身で輝いているみたい。

私も、こんなにたくさんの人に幸せをあげられる人間になりたい―――


「・・・・・・なまえ、俺さ、我慢できないから言うわ」

隣同士、ツリーを眺めていたら、急に平助が話しだした。

けれど、視線はツリーをじっと見つめたまま。

なんだろうかと彼の方をちらりと見ると、照れくさそうな表情と、ほんのりと赤く染まった頬。



―――まさか。




「お前の事、好きだ」





だって、さっき、数時間前に、出会ったばかりだよ?

何の、冗談―――




「一目惚れ。今日本当に少しだけど一緒に居て、もっと一緒に居たいと思ったし、なまえを知りたいと思った。

俺と、付き合って下さい」




さっきまで、あんなにふざけていた平助の瞳は、急に真剣さを孕んでいた。

そんな目で見られたら、私―――。

そう思いながらも、逸らす事が出来ない。

でも、嘘だって、つけない。





―――ごめん。・・・・・・私、彼氏居るんだ。

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