「おはようございまーす」

「よろしくお願いします」

今日は、12月25日。クリスマスである。

何でこんなロマンチックな日にライブを入れるかな・・・と悪態をついたのは2ヵ月前。

「付き合ってから初めて過ごすクリスマスだ!」と浮かれて、計画も必死で練っていた私は彼にひたすら頭を下げた。

本当は夜景の見える良い感じのホテルで朝まで良い感じになる予定だったのに。



episode1 "ダンス2000"



会場入りしたのは、まだ午前11時。なんでこんなに早いのかと言うと、全10組が出演するクリスマスイベントなのだ。

私たちはまだ結成して3カ月。マネージャーの伊東ちゃんが割と顔が広いらしく、私たちの事を押してくれてこんな大きな仕事をくれた。

全員女の3ピースバンド(まあ俗に言うギャルバンというやつ)のドラムを担当している私。今回、オープニングアクトとして、4曲だけ披露する。

私たちが会場入りするのと同時入りしたのは、結成5ヶ月というまだ若手ながら、注目を集めているバンドだった。何とトリを務めるらしい。

「おはよーございまーす」

全員イケメン揃いのそのバンドは、私も噂には聞いていた。ファンがすっごい多いって。この規模でのライブももうすぐ出来なくなるくらいに成長するらしいって。

・・・・・・ん、あれ?

いや、あんな人この世に2人と居るわけがない。そう、絶対に・・・

「原田さんっ!?」

「?お、なまえじゃねえか。なんだ、お前も出るのか?」

「わああ、お久しぶりです!」

声を掛けてみればやはり本人だった。

原田さんは以前、私が高校生の時にやっていたバンドでお世話になったライブハウスのスタッフさん。

彼も私と同じくドラムをやっていると言う事で、打ち上げでかなり盛り上がったのを覚えている。

「原田さんのバンドだったんですね!対バンできてめっちゃうれしいです!よろしくお願いします!」

「そういやお前、もう酒飲める歳になったか?」

「いえ、ぎりぎり未成年なんですよ」

「ってことは19か?じゃあウチの鍵盤と同い年だな、平助ー!」

彼が声を掛けたのは、小柄で目がぱっちりとしたやんちゃそうな男の子だった。

「何?左之さん、いい加減準備始めないと土方さんに怒られ・・・」

「これ、お前と同い年の平助ね。よろしく頼むわ」

「あ、どうも。みょうじなまえっていいます」

「・・・・・・」

私が挨拶をしてみても、彼は固まったまま動かなかった。

「あ、あの・・・??」

「平助?」

「・・・ちょ、ちょっと、左之さんっ!!!こっち、こっち来てって!!!」

「おいっ」

平助君に引っ張られて原田さんも一緒に居なくなってしまった。

一体何がどうしたと言うのだ。私、彼と会った事でもあったのかな??

「みょうじちゃんっ準備なさい!」

「あ、伊東ちゃんごめん!」

ぼーっと一人で突っ立ってると思われて怒られた私は、リハーサルに向けて準備を始めた。

さすがに10組全部のリハが出来ないので、トリの原田さんのバンドと、私たちのバンドだけがやる事になっていたのだ。


最初にリハをするのは原田さんのバンド。

話はしたけれど、実際ドラムをたたいている姿を見るのは初めてだった。

リハとは言え、急速に成長しているのが分かるほど、彼らの演奏はカッコイイと思ったし、この容貌。ファンが増えないわけがない。

原田さんのドラムは、変な力みが一切なくて、突き抜ける音がかっこいい。

『ボーカルです。もうちょっと自分の声下さい』

「はーい」

『あ、ドラムです。こっちもボーカルの声貰って良いっすか』

「はいよー」

音響さんと打ち合わせながら進んで行くリハーサル。

それを見ているだけでなんだかわくわくとしてしまう。

そして、さっき固まってしまった彼、平助君が気になって見ていたら何度か目が合ってしまった。

ぺこりとすると、気まずそうに眼を逸らされる。

(・・・・・・何!?何なの!?私何かした!?)

理由が分からないせいで、ちょっとだけムカっとしてしまう。




次は私たちのリハーサル。もう開演まで1時間もない。

他の出演者も続々と会場入りしていて、何だかオーディションを受けているような気分になるほど大勢に見られている。

「ごめんねー時間ちょっと押してる」

『はーい、大丈夫です』

いつもの曲のサビから合わせて微調整。それだけ出来れば十分。だって、他の出演者さんはリハなしなのだ。

そして、さっきあんなに目を逸らしていた平助君が、今度は逆に食いついて見てくるから本当に何の違和感だろうかとそっちに気を取られてしまう。



リハが終わって楽屋に入ると、平助君が声を掛けてきた。

「その、さっきはごめんな」

「はあ」

「いや、その・・・」

「なまえがあんまり可愛くて照れたんだと」

後ろからした原田さんの声に真っ赤になってしまった平助君。

「ちょ、左之さんそれ言わないでって言ったじゃん!!」

「はっ!?私がっ!?」

「俺ちょっと飲み物買ってくるわ。じゃあな」

「左之さん!!!」

パタリと閉じられた扉に取り残された私たち。(もちろん他にも出演者さんは居るけれど)

「いや、その・・・急にごめんなっ!」

「私こそ・・・なんか、すみません」

「別に、なまえは悪くねえし!・・・ていうか、名前で呼んで良い?」

「もう呼んでるじゃん」

そうして笑い合った私たち。照れていただけなのだと分かってちょっと安心した。

「今日ってさ、最後まで居る?」

「うん、そのつもり。原田さんのバンド見たいし」

「いや俺もいるし!」

「ふふ、ごめん、平助君もちゃんと見るよ」

そう私が言うと、また視線を逸らしてしまった。照れてる?なんかかわいいな。

「平助で、いいよ」

「・・・・・・うん、分かった。がんばってね、平助」

「なまえも」


可愛いって言われて何だかくすぐったいと思った私。

この感情が「好き」に変わるのにそんなに時間はかからなかった。

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