約束の土曜日。待ち合わせの11時を30分過ぎた、某地下鉄の1番出口。

太陽までもが祝福してくれているのではないかと思うほどの晴天に、頬をゆるませながら家を出てきた私。

今朝決めた、薄いイエローのシフォンワンピースが風に揺れていた。

たくさん歩くかもしれないし、甘すぎてもいけないだろうと、スニーカーで足元はカジュアルに。

残暑、まだまだ上着も要らない9月下旬。



カウント12



斎藤くんを待たせてはいけない(早く斎藤くんに会いたい)と、30分前に来ていた私は、1時間もここで待っていることになる。

既に温くなってしまったペットボトルの紅茶を飲みほして喉を潤してみるが、爽快感のかけらもなかった。



そもそも、今日斎藤くんと出かけられる事になったのは、生徒会顧問の土方先生のおかげだったりする。


「自分から誘うなんて出来るわけないです!」

アドバイスをくれた土方先生を100パーセント否定したのは、別に悪気があったわけではない。

むしろ、毎回先生のアドバイスは的を得ていると思うし(さすが大人)何より説得力がある(さすが先生)。

「ったく、お前はいつもいつも・・・そんなんじゃ、もし斎藤もお前を好きだと思ってても言いだせるわけねぇだろうが」

「えっ・・・!?」斎藤くんが私の事を・・・

「もしって言ったろうが!たとえ話だ。あいつの口数の少なさを知ってんだろ」

「なんで!?先生エスパー!?」

「ばっか、てめぇは思ってることすぐに顔に出んだよ」

軽く小突かれた額をさすりながら、じゃあなんで斎藤くんは気づいてくれないんだろうとちょっとふてくされる。

「そっか、私は喋りすぎで斎藤くんは無口すぎるんだ・・・ねえ先生、このバランスってありなのかな!?」

「お互いがお互いにそれを望んでいれば有りなんじゃねえか」

・・・うん、確かに。私は良く喋る斎藤君より、無口な斎藤くんの方が好きだ。

「でも、でもでも自分から誘うなんてそんな恥ずかしい事やっぱりできません〜〜」


別に相談を持ちかけたわけではない。

ただ、土方先生に生徒会会議の後に呼ばれて何かと思えば「お前斎藤の事好きだろ」って言われた。

これって、「おまえ俺の事好きだろ」って言われるのと同じくらい恥ずかしい気がする!

ばれてしまったなら隠す必要なんてないし、逆に先生に事あるごとに相談をしていた。

「先生、斎藤くんに字がきれいだってほめられたんです!!」(←書記)

「先生、斎藤くんのほっぺにご飯粒がついてたんです・・・!」

「先生、斎藤くんが汗をぬぐってる姿が輝いていたんです・・・!!」

うるせーと言いながら、それでも先生は私の話を最後まで聞いてくれた。

なんだかんだ言ってもやっぱ優しいんだ、このドS教師も。



「今度の土曜、11時空けておけよ」

「・・・は」

「なんだよ、その間の抜けた返事は」

先生の言葉が理解できずにポカンとアホ面をさらしてしまった。

本当は俺が行くつもりだったんだが、と先生はぎっしりと何かが記入された一覧を差し出して

「今度の学園祭で必要な備品のリストだ。斎藤も一緒だったら大丈夫だろ」

「へ??」

「斎藤には俺から話しておく。ほら、もう昼休みも終わるだろ、さっさと教室戻れ」

それって、それって?先生それって、二人で行って来いってこと・・・

「っ・・・!!ひじがだぜんぜーー!!!だいずぎーーー!!」

「馬鹿野郎鼻水っ!汚ねぇな!言う相手が違ぇだろ」

うう、ぐすぐす。だって、だって、嬉しすぎて・・・。




―――――土曜11時、某地下鉄の1番出口で、斎藤くんと待ち合わせ。


せっかく土方先生が取り付けてくれた約束を、無駄にしてはいけないと、いくつか作戦を練ってきた。

トイレに行きたくなった時。沈黙が続いた時。お腹が鳴った時・・・などなど。

しかし、当の本人が来なければせっかくの作戦も実行には移せない。この1週間ひたすら考えていたのだけど。

けれど斎藤くんは待ち合わせの時間に遅れるような人じゃない。もし遅れるとしても、必ず連絡を入れてくれるはず・・・。

それが、待てども30分以上姿を現さないとなると、完全に何かあったと思うしかない。

「はあ・・・」

何度も何度も、携帯をチェックするが、着信も、メールすらも届いてはいない。

もしかして、今日の約束は彼に伝わっていないのではないかと不安になる。

私がウザすぎて、土方先生にだまされたのかな!?

でもだとしたら、、、教師としてどうなの!?純粋な生徒の気持ちを弄んだの!?

いや、あの優しい(ドS)先生に限ってそんなこと・・・ないよね。


祝福してくれた(だろう)太陽を一睨みして、深呼吸。

きっと大丈夫。大丈夫。

一回落ち着いて、斎藤くんが遅れている理由を考えてみる。

その1>> 寝坊。

絶対あり得ないけど、そうだったら相当可愛いな。ちょっと寝ぐせとか跳ねてて、子犬みたいに走ってきたりしたら即アウトだ。

その2>> 病気。

今日は両親が留守にしていて、前日から体調を崩していた斎藤くんはだれにも看病されずにうんうんしているのか・・・。

熱で火照った顔・・・セクシーすぎてやば・・・ちがうちがう!ぶんぶん

その3>> 事故。

もしかしたら自分じゃなくて誰かが事故にあった現場にたまたま居合わせてそのまま病院に付き添うパターン・・・斎藤くんならありそう。

あっ・・・もしくは駅前にチャリ止めたらドミノ倒しのごとく連鎖して倒してしまって、わざわざ1台ずつ丁寧に起こしているなんてことも・・・。ま、まじめかっ!まじめだな。

その4>> ダブルブッキング。

じ、実は違う女の子と既に約束があって今日は来れないことが最初から確定しているのにそれを知ってて土方先生は私に教えてくれないとかやっぱりあの人超ドSなんですけど!!

その5>> そもそも約束なんてしてない。

・・・・・・。ショボーン


そんな風に考えを巡らせていると、

「す、すまない・・・!」

申し訳なさそうに、息を切らしながら必死に走ってきた彼を見て、安心して泣きそうになった。

寝ぐせは無いけど即アウトパターンのやつだ。

「もう、帰ってしまったのではと思った・・・」

「ま、まさか・・・」

さっきまで待っていた長い長い1時間と、巡らせた遅刻の理由なんて一瞬で吹き飛んだ。

「遅くなって、すまなかった」

丁寧に頭を下げる斎藤くんに、こっちまで申し訳なくなってくる。

「だ、大丈夫・・・だよ。い、行こう?」

何事もなかったかのように歩き出そうとする私に、斎藤くんは立ち止まったままだった。

「・・・聞かぬのか?」

「・・・え」

「連絡も入れずに待たせてしまった故、心配していたのではないかと」

気まずそうに目を逸らした彼の頬が、若干赤らんでいるのは気のせいだろうか。

「・・・そりゃあ、多少は・・・」

言い出しにくそうにしている彼が何だか物珍しくて、これはあの学校で見る斎藤くんと同一人物なのかと見まがうほど。

口元を左手で押さえたまま、実に聞き取りづらい小さな声で語り始めた彼。

「じ、実は、時間通りに着いてはいたのだが・・・」

「うん?」
































「あははははははははははは!!!!!」

あの斎藤くんが私の大爆笑を誘った。

「ち、地下だった故携帯も繋がらず、どうしたものかと悩んだのだが」

「いい!もういい!ふふ・・・」

「本当にすまなかった!」

「・・・だから、いいよ気にしないで?」

思いっきり笑って、目尻にたまった涙をぬぐう。まさか彼の前で爆笑することがあるとは思わなかったが、緊張が一気に解けた気がする。

「斎藤くんって、結構お茶目なところがあるんだね」

「おちゃ・・・っ」

「私は、いつもクールで口数の少ない完璧な斎藤くんしか知らないから」




正解は

その6>> その他。



――――切符を失くしてしまい、出られなかったのだ。




初めての事で、動揺して、一生ここから出られないのではないかと不安になったとか。

30分も改札内で悶々としている彼を想像すると可愛くてたまらない。


「でも、どうして切符なくすなんて。らしくないね」

「そ、それは・・・」

「???」


1年後、斎藤くんに「あの時は緊張していたのだ」と言われることになるとは、今の私は知るはずもない。



END



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