おはなとはじめくん



誰かに、花束を買う等初めてのことだった。

「すまんが、淡い桜色を基調とした花束を一つ頼めるだろうか」

がやがやとうるさい改札前の小ぢんまりとした花屋。

かしこまりましたと、笑顔を見せた店員の質問に幾つか応えながら、彼女の好きそうな花を選んだ。

これを受け取った彼女が顔を綻ばせる様子を想像すると、思わず頬が緩む。

「メッセージカード、よろしければ」

「あ、いや・・・結構・・・・・・やはり、もらおう」



「今帰った」

電車の中、ふわりと香る花の匂いと、花束を持つ自分があまりに不似合いで苦笑いがこぼれた。

玄関を開ければ、お帰りなさいと駆け寄ってきた彼女。

見つからぬようにと後ろ手に花束を隠してみても、既にばれているらしく、クスクスと笑われてしまった。

「・・・あんたに、だ」

改まって一言を言うのがあまりに恥ずかしすぎて、彼女の腕を取って無理矢理に花束を押しつければ、

ありがとうございますと、想像した以上に柔らかで可愛らしい笑顔を浮かべた。

おそらく、言い訳も立たぬ程赤くなっている顔を慌てて逸らす。

両腕に抱えた花束の香りを、思いっきり吸い込んだ彼女が、添えられたカードを見つけたらしく、これは?と問うてきた。

「そ、それは、後にしてくれ」

彼女にあてたメッセージを、目の前で読まれるのはあまりに恥ずかしすぎて慌てて靴を脱いで玄関を後にした。

首元を締め付けていたネクタイを緩めようと、人差し指を掛けた瞬間、後ろから名前を呼ばれ、私もです、と抱きつかれた。


“誕生日おめでとう。これから先も、ずっと愛してる”




おわり☆



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