ホームルームが終わると、部活に入っていない私は真っ先に図書室へ。

夕日が差し込む窓際の一番奥の席に座る。

自分の部屋より落ち着くそこは、テスト勉強にも宿題にも絶好の私の特等席だ。

それに、何といっても―――



「…なまえ?風邪をひく」

うっすらと聞こえる愛しい人の声に、遠のいていた意識を引き戻す。

がばっと顔をあげると、彼、はじめがそこにいた。

「う・・・わ、私寝てた!?」

表情をゆるめたはじめは、私のおでこをなでると、「跡がついている」といって微笑んだ。

「ええっやだ、恥ずかしい!」

火照る顔を隠しながら、いそいで前髪を手櫛で整える。

「今終わったところだ、帰るぞ」

「う、うんっ」

出しっぱなしの教科書を鞄に詰め込んで、手をひかれて図書室を出た。


―――彼が迎えに来てくれるのを待つ時間は、私の至福のひとときなのだ。





付き合い始めたのはつい3週間前。

きっかけはさっきの図書室。

それまでは”同じクラスの斎藤くん”


席だって近くなったこともなければ、話す機会もほとんどなかった。

「みょうじ?」

「え・・・あれ?斎藤、くん・・・?」

放課後、いつものように図書室でくつろいでいた私。

急に降ってきた声に、驚き顔をあげると、見知った顔がそこに居た。

「隣いいか?」

「もも、もちろんっ」

話す機会がないだけで、秘かに想いを寄せていたのは私。

難しそうな本を3冊も抱えていた斎藤くん。

・・・一方私は

「料理の本か?」

「う、うん・・・友達の誕生日が近いから久しぶりになんか作ろうかなって・・・。

お菓子の本って結構高いから、レシピまる写ししてたりして。へへ」

「・・・いい案だな」

言って、さっきの難しそうな本に目を落とす斎藤くん。

心臓が口から飛び出るのを必死でこらえた。

(なんだろ、男の子ってこんな良い匂いする?あ、これってフェロモン!?)

書き写しているレシピは、頭になんか入ってこない。本当にただまる写ししているだけ。


いつから好きだったとか、そんなの覚えていないけど。

斎藤くんは物静かなのにすごく目立つ存在で。

もちろん、クラスの女子の中には私みたいに斎藤くんに片思いしている子もたくさんいると思う。

ただ、私は自分から話しかけるなんてできないし、せめて席が近くにならないかなって、

席替えの度に祈ってみたけどそれは未だ叶っていない。

だからこそ余計、近づきたいって想いが募ってしまう。

声を聞きたいと思うし、まれに見せるあの笑顔を独り占めしたいとも思う。

でもそんな勇気のない私は、クラスのみんなに囲まれている彼を遠目に見るだけ。



―――だったのに、今隣に斎藤くんが居る。





どうしよう。


どうしたらいい?


何を話したら不自然じゃない?


私、ちゃんと笑えてる?


顔、真っ赤じゃない?





緊張のドキドキで、手が震えて止まらない。


カタン



「わ・・・ごめん」

震えだした指先からシャーペンが滑り落ちた。

「いや・・・みょうじ?大丈夫か?」




―――大丈夫じゃ、ないよ。




「ごめん、ありがと。私、そろそろ帰ろうかな・・・また、明日っ」

斎藤くんが拾ってくれたシャーペンを受け取って、立ち上がり、さよならの言葉を告げた途端



「みょうじ!」



何で?

今私、斎藤くんに腕を掴まれてる。

どうして?

「斎藤くん、い、痛い」


「す、すまない・・・」

「どうか、した?」

「いや、その・・・俺が隣に居たことで、何か気に障ったのではと・・・

無意識に何かしてしまったのなら謝る」


「斎藤くんは、なにも悪くないよ?・・・バイバイっ」

そう、斎藤くんは何も悪くない。悪いのは、斎藤くんに恋してる私。

まともに話せもしない癖に、独占欲なんて。自分に呆れる。


明日、どんな顔して学校行けばいいんだろう。



夕日が伸ばした影を追いかけながら学校を後にした。






翌朝、始業1時間前。

いつものように早起きをして、1番乗りで教室の扉を開く。

―――早起きと言うのは語弊があるかもしれない。ただ、気づいたら起きる時間だっただけ。

私がこんなに早く学校に来るのは、大勢の生徒たちと同じ波に乗って歩くのが嫌いだからだ。

朝早い、誰もいない教室が好き。この、しん、とした静寂の音が好き。



一つ深いため息をついて、昨日のことを思い返してみる。



どうして、あんな態度をとってしまったんだろう。

普通にしていれば何も問題なんてなかったはずだし。

そもそも、仲良くなるきっかけになったかもしれないのに。

もったいないことしたなって、がくりとうなだれる。


「!」

普段ならまだまだ一人の時間を満喫できる時間なのに、扉の開く音に驚き振り向くと

まさか、

「・・・さい、とうくん?」

「みょうじ、おはよう」

「お、おはよう」

そうして彼は、私に話があると言った。

風紀委員の彼は、もうすぐ校門に立つ時間らしい。

けれどいつも、通学の時間に私を見かけないからもしかしてと、少し早く家を出たのだと言った。

「その、昨日の事なのだが」

どきん。

「え、う、うん」

「あれから、一人で考えてみたのだ」

どきん、どきん。


静かにして、私の心臓。


斎藤くんの声が聞こえないくらいにうるさく響いてる。


いつもの静けさは何処に行ってしまったのか。ここは本当にいつもの教室?


どきん、どきん


どきん




どきん




どうしよう








斎藤くんが大好きだ―――






「単刀直入に、言う。二度は言わぬ故、ちゃんと聞いていてくれるか」




こくんと頷くので精いっぱい。








みょうじが、好きだ―――





「え・・・?なんっ」



どき  どき  どき どき どきどきどきどき


あまりに早すぎる鼓動に、一生分の心拍を終えて停止してしまうのではと不安になる。


「聞き返すな、二度は言わぬと言ったはずだ」


耳まで真っ赤に染めて、斎藤くんは気まずそうに目を逸らした。

握られている拳が、震えているのが私でもわかる。



ガタン、と机に手をついて勢いよく立ちあがると私は




―――わ、わたしも・・・大好き、です。



じんわりと広がる温かさに、初めて”幸せ”を実感した気がする。






青春、シンクロ恋心



校門に立つ時間だと、ばたばたと去って行った斎藤くんのあとから、

クラスメイトがニヤニヤしながらぞろぞろと入ってきた。



ああ、こんな公開告白恥ずかしすぎる・・・



でも、斎藤くんが一瞬だけ見せた柔らかい笑顔は私が独り占めできたんだし、

それになにより、幸せだから何言われたっていいや―――



END



prev next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -