私にはずっと待ってる人がいる。
まだ中学生だった私を置き去りに、幼馴染で片恋の彼は、私の知らない場所へと旅立ってしまった。
「さよなら」も、「またね」も言えずに。
ほら、恋が始まる。
「教育実習生?」
うわさ好きの友人が、目をキラキラさせながら先程の職員室での話を聞かせてくれた。
彼女の言っているあり得ない人間像を想像してため息をつく外ない。
「そんな人、居るわけないでしょ」
「居るのーーー!!だって、職員室から黄色い声援上がってたんだよ!?」
「ははは・・・まさか」
「あんたもいい加減恋しなってーー!」
「そんなの、しようとして出来るもんでもないってば」
はいはい、と友人の台詞を流して席に着いた。
私を置いて去ってしまった彼を恨んでいる訳ではないが、くれてもいい筈の連絡のひとつをずっと待っている私の身にもなって欲しい。
待ち続けて、もう・・・・・・何年かな。数えるのも、正直疲れてきちゃった。
友人の言う通り、ちゃんと高校生らしく恋して彼氏でも作っておけば、こんな風に悩まなくてきっと済んだのに。
廊下から、きゃあ、という黄色い声援と共にたくさんの足音が迫ってくる。
一体何事だろうかと、ちょっとだけ廊下を覗いてみれば。
「・・・嘘」
ずっとずっと、待ってた彼。
しかもすっごく大人びて、かっこ良くなってる。さっき友人が言っていた“あり得ない人間像”は嘘じゃなかった。
ドキドキと高鳴るのは、あなたに恋してる心臓。
久しぶりに会えたせいなんかじゃない、それは―――
す、と私の目の前で立ち止まった彼は、私を見つめたまましばらく動かなかった。
それは―――きっと、2度目の恋。
「はじめ兄・・・お、おかえり」
久しぶりに、声に出して読んだ名前。
「綺麗に、なったな」
ふ、と微笑んだその柔らかい瞳と。懐かしい声と。
「・・・な、」
今まで彼を待っていた、長い長いあの時間は一体、何だったんだろう。
一瞬で、あの頃に引き戻される。
でも、ここに居るのはあの頃よりも大人になった私たち。
「長い間、待たせてすまなかったな」
「・・・私、待ってなんか」
「強がるな。あんたの気持ちなんて疾うに知っている」
「・・・し・・・知ってるくせに、待たせるなんてずるい」
ほら、この距離感だって、あの頃と一緒。
「ずるいのは、あんたの方だろう」
「え?」
―――こんなに綺麗になるなど、聞いていないが?
ほら、恋が始まる。
2013.08.26 はに
お題配布元 "確かに恋だった"
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