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「この辺りで良いかな・・・ねえ、総・・・・・・あれ?」
ガヤガヤと、通り過ぎてゆく人の波に逆らって、立ち止まる。
後ろをついてきていた筈の二人の姿が見えない。
なんで―――
「見失うほどの人混みではないはずだが・・・」
「で、電話っ、してみるね!」
携帯を、持つ手が震えているのが自分でも分かる。
二人に、何かあったらっていう不安。
それは偶発的なものではなくて、意図的であるのではないかという、不安。
冷たい呼び出し音が耳元で聞こえる。
早く、お願い。早く出て・・・。総司。
『・・・もしもし?』
「あ、総司っ!?ちょっと、どこ行っちゃったの?」
『ごめんごめん、なんか、はぐれちゃったみたい。だってなまえ歩くの早いんだもん』
いつもと変わらない、明るい声が聞こえてホッとした。
『でも、舞華ちゃんが・・・』
「何!?」
『下駄、履きなれてないみたいで鼻緒で足痛めちゃってさ・・・すぐ追いつくから先行ってて?』
「や、やだっ!戻るよ、舞華が心配だし!」
それは嘘じゃない。
でも一番の理由は、総司に傍に居て欲しい。
『はあ・・・わかったよ、本当わがままなんだから。じゃあ、すぐ追いつくから待ってて?すれ違っちゃうかも知れないから』
「う、うん・・・・・・」
そうして、切れた携帯を、だらりと力なく降ろして、二人が居るであろうその方向を眺めていた。
「・・・戻るか?」
「え?」
「・・・・・・その様な顔をしていては、せっかくの夏を楽しめないのではないか?」
「一君・・・」
優しいんだ、この人。
「あんたは、総司を好いているのだな」
「わ、わたっ・・・私が!?総司を!?ちょっ・・・冗談・・・」
舞華に相談したら、頑張ってね、応援するからと背中を押してくれた。
それが今、その友人と私の好きな総司が一緒に居るっていうこの状況、不安でたまらない。
彼にまで見透かされてる、私の気持ち。
もやもやとしていて、見抜けないだろうと思っていた、好きの想いを、簡単に。
「別に、隠す必要など無いだろう。その表情を見て居れば分かる事だ」
それでも私の気持ちは、見抜かれるほど単純であって欲しくもないし、透明である筈がない。
そう、思いたい。
「総司!!」
私は一君と二人で人の波に逆らって、来た道を戻っていた。
すると目の前から、周りの人たちに避けられながら歩いてきたのは、総司と、背負われている友人。
「あれ?戻ってきたの?」
よいしょ、と、背中に居る私の友人を背負いなおした彼は、疲れている様子もなかった。
「なまえ、ごめん・・・」
いつも見下ろしている彼女を見上げると、すごくすごく申し訳なさそうな顔をしている。
それもそうだ、だって、彼女は私の気持ちを知っているのだから。
「ううん、いいよ、私もごめんね?足平気?」
そう言いながらも、この胸にもやもやが溢れる。・・・私は友達に嫉妬してる。最低なのかな。
だって、私なんて総司と手を繋いだことすらないのに。彼の背中の温もりを感じている彼女が羨ましい。
「いいから、始まっちゃうよ。混んできたし、行こう」
総司に言われて、また歩き出す。
「あ、うん・・・」
どさくさにまぎれて、手を繋げたら―――そう思っていたのに。彼の両手は塞がっている。
花火になんて集中できる訳、なかった。ただ、大きな音を聞きながら、色とりどりに染まる総司の横顔をずっと、眺めてた。
「え、送って行くって・・・家まで?」
「だって、歩けないんじゃしょうがないでしょ?それとも何?なまえが連れて帰る?」
小柄とは言え、女の子を背負って私が無事に送り届ける自身も無い。
「じゃ、じゃあ私もついて行く!」
「電車、なくなるよ?ただでさえこんなに人が多いんだから」
「でも、総司はっ」
「僕?僕はなんとでもなるよ」
「沖田くん、大丈夫、わたしゆっくりなら歩けるから・・・」
「よくない!女の子が浴衣姿でのんびり夜道歩いてたら何があるか分からないでしょ」
「で、でも・・・・・・」
「こういう時は、甘えて良いの!」
私に気を遣っている彼女の様子を見て居られなくて。
それから、二人きりにするのが、すごく怖くて。
不安で不安で、たまらない。
「なまえ、なんて顔してるの?せっかく可愛い浴衣着てるのに」
「・・・・・・ばか」
じゃあね、と改札を通った二人分の背中を見送る事しか出来なくて。
「ねえ、一君・・・私・・・」
「あんたが心配している事くらいわかるが、友人を信用してやれ」
「・・・・・・」
誰かに縋っていたくて、隣の一君の、肩を借りた。
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