なんでも、北沢千昭と億泰は幼馴染らしい。 「幼馴染っつったらよォ、普通は女の子だよなァ〜〜」 南ちゃんとかさァ、なんていう億泰に、「おっくん千昭を甲子園に連れてってー」なんて返す千昭。 真面目そうに見えて、意外とおちゃらけているのかもしれない。 アイスを買ったスーパーを出て、億泰の家の方へだらだらと歩く。まだ5月も半ばなのに、外に出るとむあっとした熱気が身体にまとわりついて、じとじと暑い。 億泰と千昭は、さっき買ったアイスに早速かぶりついていた。 まだ少し遠慮がちだった仗助も、「早く食べないと溶けるよ」と言われ、素直にチョコバーの袋を開ける。確かに、この暑さじゃすぐに溶けてしまいそうだ。 「幼馴染っていっても、そんなに長い間いつも一緒にいたわけじゃないけどね」 「えっと、オレが四歳のときからで……うん?……いつ引越したんだ?」 「億泰が十四のとき」 じゃあ、ちょうど十年かあ。億泰がそう言って、アイスをスプーンでぱくりと一口。少し堪えて、ハァア〜〜とため息。 「十年って、十分長いじゃないッスか……」 「うンめェェ〜〜!やっぱアイスはハーゲンダッツだよなァ〜」 というか、2年前のことくらい覚えとけよ、と億泰に視線を送る。 すごい勢いでガツガツとアイスを食べていた億泰が、仗助に気づいて、ん?と首を傾げた。 「仗助ェ、お前なんで敬語なんだよ」 視線に気づいたわけではなかったらしい。 「だってよォ、千昭さん、高二なんでしょ?それにアイス、奢ってもらったし」 「そんなの気にしなくていいのに」 「そうだぜェ〜〜仗助。千昭童顔で小っせェから年上に見えねーしよォ」 「お前らがでかすぎるんだよ」 それと童顔は余計、と言った千昭が、食べ終わったアイスのカップを持って手をうろうろさせている億泰に、億泰、ゴミこっち、と言って空のレジ袋を差し出す。 千昭の慣れた様子と、こちらも慣れたように、おう、とカップを袋に入れる億泰に、なんとなく二人が過ごした年月の鱗片を見た気がして、居心地が悪い。 確かに、タメ口をきいた方がいいかもしれない。このまま敬語だと、かすかな疎外感を感じたままになりそうだ。 「それに、もともとアイスは億泰のお土産にたくさん買ってくつもりだったしさ」 それでクーポンたくさん持ってきてたんだ、カメユーデパートの地下で買い物するとクーポンもらえるの、知ってる?と人好きのする笑顔で話す千昭に、億泰が「オレへのお土産ェ〜〜?」と声を上げた。 「億泰ん家に行こうと思って。久しぶりに顔見たかったし……スーパーで会っちゃったけど」 「手間が省けてよかったじゃないスか」 「そうそう」 「まーね。でも、このままだと家着く前に形兆の分がなくなっちゃいそう」 あ、と億泰が固まった。仗助も、なんとなくどきりとする。 形兆は、2週間前にレッド・ホット・チリ・ペッパーの襲撃を受けて重傷を負った。なんとか一命は取り留めたものの、全身熱傷に両足の骨折で、全治8ヶ月という重い診断を受けて、今も病院のベッドに寝たきりでいる。 億泰の幼馴染だということは、形兆とも知己の仲なんだろう。 こりゃ下手に隠し立てするより、最初からばらしといた方がいいな、と思った仗助は、もごもごと口ごもる億泰を置いて、「あの、」と口を開いた。 「形兆のことなんスけど……実は……」 「え?入院してるんだよね?」 「大怪我で入院して……えっ」 な、何で知ってるんだよォ、と億泰が声を上げた。 「全身火傷に複雑骨折で、大変だって聞いたけど」 「誰に聞いたんスか!?」 「形兆」 の、担当の看護婦さん、と平坦な声で答える千昭。 なんでも、形兆の携帯にかけたところ、お節介な中年の看護婦が電話に出てしまい、そこから大怪我をしたことや、入院していることを知ったのだと言う。 「ぶどうヶ丘総合病院にいるっていうから、用事終わったらお見舞いにでも行こうと思って」 まるで風邪を引いた友人を見舞うくらいの気安さで、千昭は言った。 ただの大怪我なら何も問題はないのだが、形兆も、形兆を狙ったレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体もスタンド使いだ。 他のスタンド使いも、いつ襲撃してくるとも限らないので、普通の高校生が形兆に会いに行くのは、ちょっとまずい。 「あー、今は、お見舞いはやめた方がいいッスよ」 まだ検査とかいろいろやってて面会できる時間ないみたいだし、と適当にうそぶく。 「そう?じゃあ、また今度にするよ」 あっさりと引き下がった千昭に、仗助は安堵した。淡白な人でよかった。 性格の濃い虹村兄弟に挟まれて育ったら、灰汁の強い人間になりそうなものだが、なかなかどうしてあっさりしている。周りが濃いと自分が薄くなるのか?と、自分の知らぬ三人の幼年期に思いを巡らせた。 「じゃあオレ、用事あるからここで」 オーソンの手前で別れると、千昭はそのままオーソンに入っていった。 「そういえば、千昭さんの用事って何だったんだろ」 「さァな〜〜、それより、千昭が兄貴と連絡とってたなんて知らなかったよ」 え、と億泰に向き直ると、億泰は最後の(つまり五つ目の)アイスを丁度食べ終わっていた。千昭に渡されたごみ袋に空のカップを入れて、袋の口をぎゅ、と縛る。 「三人でいたのは十歳くらいまでだったし、中学入ってからは全然会ってなかったからなァ〜〜」 兄貴は会ってたのかなァ、と言う億泰に、さあな、と返して、仗助はまた歩き出した。 |