Secret

「名前(カタカナ)、来なさい」

「…… はい」

普段、ほとんど関わることのない父親に呼ばれ、名前(カタカナ)はその前に跪いた。


「何でしょうか?」

「お前の嫁ぎ先が決まった」

あまりにも突拍子のないことを笑顔で告げる父親に、名前(カタカナ)は何も言えなくなる。


「…… お相手は?」

「ラギネイ王国の第二王子、ルマティ殿下だ」

「!?」

ラギネイ王国のルマティといえば、独自の太陽信仰であるラギ教の始祖と同じ瞳の色を持った少年だと聞いたことはあった。

年も、ほとんど一緒だったはずだ。


名前(カタカナ)は、自分の中にあるルマティに関するありったけの情報をかき集める。

「先方から話があってな。

 あちらの国王から直々に、是非名前(カタカナ)を欲しいと言われてしまった故」

「…… そう、ですか」

少しだけ、名前(カタカナ)の表情が曇った。


「浮かぬ顔をしておるな。

 まあ、急な話だから仕方なかろう。

 だが、もう決定していること故、今さらダメだとは言えぬぞ?」

「わかっていますわ。ただ、実際お会いしたことがありませんので……」



自分より上にある父親の顔をちらりと覗いて、名前(カタカナ)は再び目を伏せる。

「殿下とは何度かお会いしたことがあるが、元気のよい少年だぞ。

 現在、殿下は外遊中だが、帰りにこちらへ寄るそうだ。

その時にお会いすることになろう」

「はい」

「さあ、今日はゆっくり休むが良い」

「ありがとうございます」

名前(カタカナ)は、そっと部屋を後にした。






「ふう」

自室に戻り、名前(カタカナ)は深く息を吐いた。

そして、ちらりと時計を見た後、名前(カタカナ)は窓の外へと目をやる。



―― 今日も、彼は来ているかしら?


毎日同じ時間にこの邸を出入りする男性が、ずっと気になっていた。

勿論、互いに面識もなければ、一度も話をしたこともない。


毎日、大きな箱を持って出入りするその姿を見るのが、名前(カタカナ)の日課になっていた。



自然と目で追ってしまうのは、きっと、彼のことが気になっているのかもしれない。


とはいえ、そんなことを誰にも言えるはずはなく。

言ったら言ったで、身分が違いすぎると反対されるのが関の山である。

それに、この縁談を今更断ることは出来ない。


そのくらい、名前(カタカナ)にも分かっていることだった。



気持ちを誰かに告げることは、もう叶わない。




―― これは、誰にも言えない、私だけの秘密。


fin.



Eternal Edenの柚原朝稀様にリクエストをし頂いたものです。頂いたものの更新が遅くなってすみません。

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