「アスは相変わらず変な口調よね」

コロコロと笑う彼女の笑顔が好きだ。不思議な力があるようだとか言えばまた、臭いだのロマンチストだのおちょくられるのが目に見えているから、口に出す日は暫くこないだろう。大袈裟でも何でもなく、彼女の笑顔には引力が働いている気がしてならない。その力に引き寄せられるままに、俺は#name1#の頬に触れた。手の平に張り付くような柔らかさと少し力を込めれば簡単に崩れてしまいそうな危うさがある気がした。

「でもまぁ、嫌いじゃないよ、その『〜ちゃ』ってやつ。曲識もよく言ってた」

「………トキの事だっちゃ、どうせ馬鹿にしてたんだろ」

「うん、可笑しいって笑ってた」

俺が近付いたり触れたりすると、#name1#があからさまな防御壁を張るのはいつもの事だ。彼女の想い人の名前に俺の心がぴりぴり痛む。俺を逃がして死にに行った男の名前を、切なげな表情を浮かべて紡ぐ。

「#name1#は、俺の事恨んでるっちゃか」

「……何でよ」

「トキが死んで俺が生きているのが憎くないのか」

あれから何度も繰り返している質問を性懲りもなく投げ掛ける俺に、彼女は困った風に笑っていつものように言葉を返す。

「アスが生きていようが死んでいようが、曲識が死ぬ事には変わりなかったと思うけど」

ただの確認行為のようなやり取りに飽きもせず付き合ってくれる彼女自身も、俺と同じように未だ現実を受け入れれてないのだろうか。俺の手首を柔く掴む彼女の、伏せた睫毛が綺麗だなと思った。掴まれた腕はそのままそっと下ろされて、手の平は簡単に離された。

「私は、アスが生きていてくれてよかったよ。じゃなきゃ私はまた独りぼっちになっていただろうから」

「じゃあ―――」

#name1#の手を振り払い、肩に両手を乗せてぐいと引き寄せれば、いつもと違う俺の行動に彼女の双眼は真ん丸に見開かれた。

「俺の前でくらい、強がるの止めろよ」

「………強がってないよ。私はいつもこんなだよ」

彼女の声が微かにふるえたのを聞き逃さなかった。笑顔を張り付けたままの彼女をそこから更に引き寄せれば、思っていたよりも簡単に、#name1#は俺の中におさまった。

「……どしたの、アス。寂しいの?」

「違え」

「じゃあ何、何でこんな事するの?」

「#name1#の作り笑顔を見たくねぇからだっちゃ」

「作って、ない……」

力無く呟く彼女を抱く腕にぎゅううと力を込めれば弱々しく、作ってない、作ってないと繰り返す声が聞こえてくる。

「駄目だよアス、曲識が――」

「トキはもう死んだっちゃ」

「そんなの言われなくたって知ってる、けど……。何処かから曲識が見てるかもしれないし、……うん、今もきっと何処かから見てる。だから駄目、曲識に怒られる。曲識が悲しむ」

「死人は怒らないし悲しまないっちゃ」

「死人とか言わないで!」

突然荒らげた声にびくりとしたが、腕を解く事はなかった。腕の中で震える彼女に対して、背徳感が込み上げてくる。

「ねえ、今日のアス意地悪だよ。私の知ってるアスじゃない」

「#name1#の知ってる俺だっちゃ。俺はいっつもこんなだし、いつもいつもこうしたいって思ってる」

「…………うそだ」

「嘘じゃねえ。だから頼む――、泣いてるみたいに笑うのはもう勘弁してくれ」

縋るように言えば心地の悪い沈黙が続いた。何の反応も見せない#name1#をただ抱きしめることしか出来なかった。

「へへっ、へへへ……」

沈黙を破ったのは可笑しな笑い声だった。

「……………」

「アス………、」

「ん?」

「寂しい」

その声は途中から子供みたいな泣き声に変わって、俺はただ「ああ、寂しいな」と、#name1#の背中を摩ってやることしか出来なかった。





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