「なーんか、おかしいね」
なにが、と言おううと思って留まった。「確かにそうかもな、」と思う部分があったからだと思う。
「生きるってなんなんだろう」
「ぎゃはは、あんた、そんなん聞かれたら上の連中に何言われるかわかんねーぞ」
「出夢だから、聞いたんじゃん」
彼女は僕の手を握りながらそう言った。温かくて柔らかくて、心地いい。僕をこんな気持ちにしてくれる彼女の手も、周囲を冷たく血に染める武器や汚い誰かの手足となるなんて、現実を目の当たりにしたところで信じれるわけがなかった。
「なんか、わかんなくなってきた」
僕の肩に頭を乗せた彼女の声が、空気を小さく震わせる。僕が黙ったまま何も応えないでいると「なんでできちゃうんだろう」と続けてそう洩らした。
「出夢はさ、裏側とか、仕事とか、嫌になんないの?」
そんなのはおかしいと言いた気に僕を窺う。
「あー?僕はそんなのいちいち考えねえからな。ほら、だって面倒臭いじゃん、考えてどうこうなる問題じゃあないし。まあ、暇つぶしに断片集のやつらぶっ殺してやりてえなーとは思ったりするけどよ」
「嘘だ、考えてない訳がない」
「………」
どうやら彼女に僕の強がりが通じる風でもなく、僕は少し間を置いてから、惚けるように笑った。そりゃあ僕はあまり頭の良い方ではないけれど、何も考えていない訳ではない。
「嘘つくの下手糞なんだね」
「まあな」
「私はわかんないんだよね、なんか色々。自分とか、仕事とか。こんなこと言うのもなんだけど、私、まだ死にたくないって思ってんだよ。おかしいでしょ」
「そりゃあ無理だろ。あんたも僕も、殺しすぎてるぜ」
「わかってるけど、仕方ないじゃん。私の意思じゃない」
「殺された人間からしたら、僕達の事情なんか知ったこっちゃねえんだろうよ」
「そうだけど」言って彼女は言葉を詰まらせた。顔を覗けば陰鬱そうな表情を浮かべていて、必死に言葉を探しているみたいだった。
「僕達みたいなのは長生きしないんだよ。平均寿命、知らない訳じゃないだろ?」
そう問いかければ、黙ったまま首をこくりと揺らす。「だから余計に考えるんじゃん」今にも泣きだしそうな声を鳴らす彼女を抱きしめたくなったけれど、寸出のところで自制した。そうしてしまえば僕達の存在がガタガタと一気に崩れてしまいそうでならなかったからだ。
「なんでできちゃうんだろう。熟せるんだろう。成功しちゃうんだろう。私がただの出来ない子なら、ここまでのことにはならなかったかもしれないのに」
「あんたがやらなかったら、ほかの誰かが同じ事をやってただけだって。僕達はそんな事考えるべきじゃないんだよ」
「依頼人は秩序」小さな声で少し投げ遣りな気持ちで呟く。彼女がまた悲しい色を浮かべる。僕は見てみぬ振りをする。心の訴えを無視して紡ぐ。
「せめて、こんなに中途半端な心が生まれない造りにしてくれれば良かったのに」
「ぎゃはは、それには同感だ」
「中途半端で馬鹿みたい」
繋いだ手を離せないでいた。口では偉そうな強がりを言いつつも、他人の体温を欲する自分が可笑しかった。僕らは失敗作のままだ。