その日のあいつらは、いつものあいつらではなかった。
というのも二人が揃って登校してきた時は何とも感じなかったのだが、違和感に襲われたのはその後のこと。



まず変だったのは、弘がやたらと弾けていてイキイキした顔をしていた。いつも怠そうにしている目がぱちりと開き、朝一番に私に向かって、おっかすがじゃーんおはよー、などと快活な……というかかなり適当な挨拶をしたのだ。弘との付き合いはそこそこ長いが、史上初の出来事である。
あまりの違和感に一瞬“誰だ貴様”と口走りそうになってしまったが、どう見ても容貌は弘。混乱しつつも挨拶を返した。

次におかしかったのはやはり佐助。いつも妙にテンション高く弘に引っ付いて登校してくる筈なのだが、今日は普段の弘以上に怠そうというか……疲れているような雰囲気が見て取れた。そして伊達や真田へやたらとちょっかいを出している弘にちらちらと視線を移しながら、はあ…と泣きそうな顔で溜め息をつく。何かあったのだろうか。


「おい」
「……ああ、かすが」


おはよ、とめんどくさそうに顔を歪めながら佐助がバリバリと頭を掻いた。やはりいつもの佐助とは何かが違う。何と言うか…………真人間だ。
こいつの心配をするのは些か癪だが、気付いてしまったからには仕方がない。


「どうした、調子でも悪いのか」
「いや……何でもない……」


曖昧に笑ってはぐらかす佐助。その力無い笑顔に、一体どうしたものかと柄にもなく心配になる。大体弘は何をしているんだ。こいつの心配をするべき私ではなく、あいつの筈だろう。


「っあ……!?」
「? …どうした、」
「っえ、あいや、何でもない…!」


一度目を見開いたかと思えば、ふらふらと慌ただしく視線を逸らした佐助。先程まで奴が見ていた場所を振り返ると、弘が伊達に見事な目潰し(左目への集中攻撃)をかましているところであった。……何をしているんだあいつは。


「…お前ら、何かあったのか」
「っは!? え!? 何かって!?」
「な、何って……喧嘩とか…」


急に佐助がぎくりとしたように背筋を伸ばしたので、こちらも思わず緊張してしまう。何なんだ、やっぱり何かあったのか。


「あー…いや、喧嘩は違う、ない」
「……そのわりには随分とへこんでるみたいじゃないか」
「……喧嘩じゃなくてもへこむ、ってあああもうまた…!!」


唇を尖らせながらまたふいっと視線を教室の後ろにやった佐助は、またもや泣きそうな声で頭を抱えた。私も再び振り返ると、今度は弘が真田に華麗な四の字固めをくらわせている。真田の顔が動揺と苦痛に歪んだ。一体何がどうなってあんなシチュエーションになったのかさっぱりである。


「…っもう、帰っていいかな」
「別に私は構わないが……それにしても今日の弘、妙にテンションが高くないか?」
「はは……やっぱそう思うよね……」


もう見てらんない……と両手で顔を覆った佐助。よくわからないのだが、とりあえずはご愁傷様、と聞こえるか聞こえないかの声で呟いておいた。

そして弘の無礼講は、私にまで及ぶ。


「かすがってさ、やっぱ乳でかいの?」
「…は?」


眉の辺りが引き攣る。後ろから聞こえた声は確かに弘のものだ。でも乳って、乳って何だ。どうしたんだお前。目の前の佐助の表情も驚愕で引き攣っている。何か言いたげだが、口をぱくぱくと開閉するだけで声は出てこない。
そして私が動揺で固まったのを良いことに、後ろから伸びてきた弘の手があろうことか…その、わ、私の胸を、掴んだ。

ぷつん、と。正面から何やら切れる音が響く。


「…ッああああもういい加減にしろったら!!!! 大体アンタ人の体、で、っ……あ、」


凄まじい形相で叫んだ佐助が、みるみる内に青ざめていく様をじっと見る。いつの間にか弘は、伊達と真田によって丁重に確保されていた。


「さァて、猿。どういうことか話してもらおうじゃねえか」


ボロボロになった伊達の悪人面が炸裂する。表情の引き攣りっぱなしだった佐助が、ついにがくりとうなだれた。




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