――― ピリリリ、ピリリリ

まだ期限まで余裕はあるが、それでも今の内にある程度は進めておこうとせかせかレポートを纏めていた時、突然ベッドの上で充電していた携帯が鳴り出した。こんな時間に誰だ、と怪訝に思いつつそれを開くと、相手はまさかの真田。……あいつから掛かってくることなんて滅多にないのに、珍しい。


「もしもし、」
『弘殿か。夜分にすまぬ』
「ううん、どうかした?」
『ああ……唐突で申し訳ないのだが、玄関を開けてくれぬか』
「は、げんか……は!?」


なんで!? そこに真田いんの!? 今!?
何でインターホン押さないの……と訝りつつも承諾の意を伝えると、慌てて玄関の方へ向かう。急いで鍵とチェーンを外しドアを開ければ、確かに真田はそこにいた。……何なんだ、どうしたって言うんだ。


「何、どうしたの……」
「すまぬ。こいつが酔い潰れてしまったようでな」
「こいつ……? って、」


“こいつ”の時にドアに隠れた部分を指差した真田。何のことだかわからなくてもう少しドアを開くと、そこには真田に肩を借りている佐助の姿があった。頭を上げずに項垂れっぱなしな辺り、半分眠っているようなもんなんだろう。
それにしても、酒に呑まれるだなんて佐助らしくない。何かあったんだろうか。


「飲んでいた場所から佐助の家より、弘殿の家の方が近かったからな。無礼を承知で邪魔させていただいた」
「ああ、いや…ありがとう…」


丁寧な真田と相反して、あーだのうーだのよく聞き取れない幼児ような喃語を発している佐助は大変みっともない。ああ、そうだったね。そういえばこのだらし無い男が私の彼氏だったね………。


「それで、大変申し訳ないのだが……こいつを一晩、弘殿の家に置いて貰えぬか」
「……あー…」


やっぱりな……と肩を落とした。まあ、真田がこいつを連れて来た時点で、なんとなくそんなような気はしていたけれど。
確かにこんな状態では家まで帰れないだろう。いま真田は佐助の家とは離れた場所で暮らしているから、恐らく送ってやることもままならない。タクシーに乗せて帰せば良いのかもしれないが、そんなことをしたら多分一番困るのはそのタクシーの運転手さんである。


「…まあ、しょうがないし。いいよ」
「……忝ない」


何だか、真田が丁寧過ぎて調子が狂うな。申し訳なさそうに頭を垂れたに慌てて手を振り、佐助を渡してもらうことにした。


「おい、佐助。弘殿だぞ」
「そんな子供相手みたいに…」
「わああん弘ちゃあああん!!」
「子供か……!」


それこそ子どものようにギャンギャンと泣き喚き、真田からべりょっと剥がれて即座にこちらへ覆い被さってきた佐助。相当飲んだらしく、かなり酒臭い。どんだけヤケ酒したのこいつ……!


「……佐助が、」
「え? 何?」
「………佐助が飲んでいる間中ずっと、“弘に逢いたい”と騒いでおった」


………は。


「え、…っと……」
「最近ろくに休みもやれなんだからな。個人的な予定も作れずにいたのだろう」


べっちょりと私にのしかかり、えへへだのうふふだの気味悪く笑っている佐助。暫く前に、プロジェクトの末端を任された、と嬉しそうに語ってきた彼を思い出す。仕事が充実してるならそれでも良いと思っていたけど、やっぱり寂しかったのは私だけじゃなかったようだ。


「幸い明日明後日は休みだ。ゆっくり休ませてやってくれ」
「……ん、わかった」
「くれぐれも無理はせぬよう」
「? …うん」
「夜は何もせず大人しく寝ろということだ」
「! ッば、」


ニヤリ、と不敵に口角をつりあげる真田。……どうやら彼は、高校を卒業をしてからはそっちの方面に対する免疫もついたらしい。いっそ一生ついてくれなくてよかったのに。


「では、頼んだ」
「う、うん……ありがとう」
「いや」


失礼する、とまた頭を下げた真田は、存外しっかりとした足取りで歩いていった。……あれ、あの人もこいつと飲んでたんじゃなかったのか。真田の方がお酒弱くなかったっけ……。

まあそれは良いや、とぐすぐす鼻を鳴らしている佐助に向き直る。とりあえずはこちらだ。


「ほら佐助、歩ける?」
「ん〜…弘〜…」
「はいはい」


肩の上に収まった頭がもぞもぞと動いてくすぐったい。出来る限り優しい声を掛けながら、ぐずる佐助の背をさする。あまり玄関先に留まるのも良くないし、いい加減部屋に入れよう。そう思って佐助の体を室内に引き入れる。
瞬間、ぞわりと鳥肌が立った。


「あは、弘のぺちゃぱい〜」
「……もう一回言ってみなさい、すぐさま外に放り出すわよ」
「うふふふふ」
「……っ…」


酔った勢いか、無遠慮に胸元を撫でてくる掌をべりべりと容赦なく剥がしながら、今は忍耐の時だと必死で怒りを押さえ込む。野郎……アルコールが抜けたら覚えとけよ……!




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