思わず「へっ」と何とも間抜けな声が飛び出す。いきなり目が闇に慣れる筈もなく、呆然とする他ない。


「停電……?」
「…ぽいな、外も真っ暗だ。懐中電灯ある?」
「えーっと多分ここらへ、うわ…った、」
「、と……大丈夫?」


テーブルの脚に蹴つまずいてよろめくと、いつの間にか正面に現れた佐助によって支えられた。そういえばもう随分前の話だけど、夜目は利くとか何とか言っていたかもしれない。


「探そうか?」
「あ、ありがと……ええと、そこの棚の上にあったと思うんだけど…」
「ん、これね」


佐助がひょいと背伸びする気配がして、何かを私に渡した。多分、懐中電灯だ。
手探りでスイッチの場所を把握し、そのままかちりと押す。点かない。押す。点かない。もう一度、押す。点かない。点かない。

……あれ?


「で、電池切れ……」
「え゙」


……これまた予想外である。更に不運なことに、大きな電池のストックも揃っていなかった。暗くてよく見えないはずなのに、お互いの顔からサァっと血の気が引いたのがわかった。


「参ったな、携帯じゃ長時間持たないし……なんか代わりになりそうなもんないかなあ」
「ええ……何かあったっけ……」
「もうこの際なんか燃やしちまうとか。せめてマッチかライターある?」
「ちょっと何燃やす気……あ!」
「え!? 何!?」


私の声でびっくりしたらしい佐助が、何かした!?大丈夫!?なんて慌てた様子で詰め寄ってくる。そんな素振りに慌てて手を振って、違う違う、と笑った。


「あるよ、燃やせるもの」









煙草を吸う成実が遊びに来たとき用に置いてあったライターを佐助に渡す。カチン、と軽快な音がして彼の手元に小さな明かりが現れた。ゆっくりと、専用の容器に入ったこれまた小さなろうそくに燈すと、その明かりはろうそくへと移った。


「よかった、ちゃんと点いて」
「ま、ろうそくは電池じゃないからねえ」
「……これからはストックしておきます」


もう随分前になるが、誕生日に友人から貰った小さなろうそく。ちょっと洒落ていて可愛いのだけど、飾る用にしてはやけに実用的に見えるしそこまで派手でもない。かと言って何かに使うにも、ろうそくを使う機会なんて滅多にないから今までずっと持て余していたのだ。


「これなら当分は大丈夫そうだな」
「うん…あんまり長引かなきゃいいけど」


電力会社の公式ホームページを確認しても詳しい情報は載っておらず、復旧までどのくらい掛かるかさっぱりわからない。何にせよ早く元通りになってくれるのを祈るばかりだ。


「……っくし、」
「大丈夫? 寒い?」
「ん……暖房も消えちゃったから、ちょっと寒いよね、やっぱり」


私がそう言うと、何やら佐助はきょろきょろと辺りを見回した。それからソファの上へ無造作に畳んであったブランケットに気付くと、徐にそれへ近付いて手に取る。そのままどさりと座り込んだ佐助をぼんやり眺めていると、不意に彼が手招きをした。


「ね、ここ来て」
「え」
「二人であったまれば良いと思うんだけど、どう?」
「っえ、う、わ…!」


ぐいっと強引に引き寄せられた場所は予想と寸分違わず、佐助の膝の上。そのまま素早く抱え込まれてしまえば逃亡も図れず、大人しくせざるを得ない。思わず眉根を寄せた私に佐助が喉で笑う。

ふわりと被せられたブランケットに二人してくるまれながら、半ば諦めた私はすぐ傍にある温もりに擦り寄ってみた。応えるように抱え込んでくる腕に、学生時代の既視感を覚える。……まあ、ないよりは良いかもしれない。


「ちょっとはましになった?」
「……ん」
「そ」


なら良いや、機嫌の良さそうな佐助の声。こめかみに埋められた鼻先がくすぐったい。佐助はこうして、後ろから抱きすくめる体勢が好きらしかった。

それから暫く、ブランケットの中で互いに体温を分け合うように寄り添った。ご飯冷めちゃうね、と苦笑した私に、また後で温めたらいいさ、と微笑み返す佐助。時折、耳に軽く噛み付いたりしてじゃれる彼が犬みたいで、言葉では嫌がりながらも本気で拒絶することはしなかった。

恐らく、それがいけなかったのかもしれない。


「んん……弘、」
「なに」
「んー」
「……っ、ちょっと」


何となく眠そうな声が聞こえて心配したのも束の間、お腹に回っていた腕が突如として衣服の内側を撫でる。微かに悲鳴をあげた私に気を良くしたのか、すかさず耳の裏へと口付けが贈られた。しんと静まり返った部屋に、ちゅ、ちゅ、と唇から零される音が響く。
最初に肌を滑った掌は脇腹をなぞり、唐突に下着の上から胸を揉み上げた。あまり慣れない刺激に肩を震わせる私に構うことなく、徐々に下りていく唇。内股をくすぐるように撫でるもう一方の手に、いい加減ぞくりと背筋が粟立つ。


「っさ…佐助、」
「だめ?」
「……っ、」


だめ、だなんて、そんな。
言葉を失った私に彼が満足げに微笑んだ気配がして、もう一度優しく耳を食まれた。否、今度は耳どころじゃない。人間としての機能も丸ごと全部。

冷えた部屋の空気が余計に寒く感じた。下着越しにきゅっと抓られた突起がそれ以上を期待して、敏感に熱を上げる。


「ね、こっち向いて」
「…っ」
「……ふ、かーわい、」


ほんと、このまま一思いに汚したくなるよねえ。
そう幸せそうに呟いた彼の唇が、覚束ない視界の中で、すう…と綺麗に歪んだ気がした。




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