:) omake



ほんの僅か、違和感はあった。

例えば、普段なら恥ずかしがってべたべた触れてくれることなんて数えるほどしかないのに(…別に悔しくなんかない)、今日はやたらと抱き着いきてくれたり、手も繋いでくれたり。心なしか嬉しそうにしている彼女に、逆にこっちの方が恥ずかしくなってしまって、いつもよりも消極的な俺がいた。
それが何だか面白くなくて、腕の中に閉じ込めた弘の細い肩に鼻を押しつけてみる。もう慣れっこなのか最近はそれに対する反応も薄いのだけど、今日はその華奢な背中がゆっくりとこちらへ預けられた。より密着した体につい挙動不審になって、彼女の後ろから回した手には汗が滲む。


「弘…?」
「んー」
「どうしたの、今日」
「…………」


黙りこくった弘はくるりと上体だけこちらに向けようとして、やっぱり面倒くさそうにそのまま俺に凭れ掛かる。まるで俺の体温を欲しがるかのように擦り寄ってくるかんばせは、どこか眠そうに穏やか。…何だよ、ドキドキしてんのは俺だけか。
けれど単純な俺はそれだけでも十分満足してしまって、されるがままの弘をぎゅっと再び抱きすくめて頬擦りをした。あんまりイチャイチャしてると独眼竜やかすがからブーイングを、真田の旦那からはお約束のあの言葉をいただいてしまうが、ここは昼休みの屋上。二人っきりの今なら、こうして心置きなくイチャつけるのである。

ふと、彼女の低めな乳房が俺の腕につんと当たった。つい鼻の下が伸びる。…なんかいい雰囲気だし、今なら触っても怒られないんじゃね?という愚かな欲望と下心のまま、俺は弘の体に手を這わせようとした。


「……佐助」
「!? っな、何でしょう…!」


ところがすんでのところで名前を呼ばれ、ばれた!?と血の気が引いた。撫で上げようとした不埒な掌を慌てて引っ込める。返事をした声も思わず裏返ってしまった。は、恥ずかしい。
しかしそんな小さなことは意に介さないようで(流石は俺様が見込んだ女)、あのね、なんていうか…なんて言いにくそうに、けれどどこか甘えたような声音で彼女がぽつぽつと口を開く。喋ることも何となく億劫そうに見えて、内心で俺は眉を顰めた。


「……なんか、やっぱりちょっと怠い、ような?」




◇ ◇ ◇





「38度、4分…」
「あちゃー……完全に俺様の風邪が移ってるねえ」
「どーりで…」


養護教諭の明智に断って体温計を借りると、案の定弘の体温は平熱以上。恐らくこの間風邪をひいた俺を看病したせいでうつってしまったんだろう。申し訳なさも込み上げるがその前に、弘自身の自己管理に関しても溜め息が漏れた。


「…弘ってさ、他人のことはよく見てるけど自分のことには案外無頓着だよね」
「返す言葉もございません……」


うなだれた弘の手から体温計を抜き取り、消毒液に浸された脱脂綿で拭うとケースへ仕舞う。リセットされた表示を見届けてから、早退届けを明智から受け取った。


「帰ったらちゃんと寝てなよ」
「ん…」
「家族は?誰か家にいる?」
「……いない、かも?」


そういえば彼女の家は共働きだとか何とか、以前に聞いたかもしれない。しかしながら、ひどく熱の篭った色をしている頬を見る限りでは一人で家に帰すのも心配だ。それに看病する人もいないなら、尚更。……うん、よし。


「じゃ、俺様も帰る」
「……はァ!?」


何で!?と焦った表情で振り返った弘の目は、熱のせいか少しばかり潤んで見える。けれどそれを、可愛いな、なんて暢気に構えている場合でもないのだ。


「看病してあげるから」
「で、でも授業…」
「大丈夫!まだ単位は平気だし」
「や……そういう問題じゃないし、」


病人のくせに、呆れたような顔をして俺の親切心を突っぱねる弘。何だか鬱陶しがられているような気すらして、ムッとして詰め寄った。


「なんで?看病させてよ」
「いいって…大丈夫だよ、」
「移した側である俺様の罪悪感も、ちょっとはわかってほしいんだけど?」
「…………」
「無理しなくていいんだよ。熱、しんどいよね」


ね、と微笑むと黙りこくった弘が遂に項垂れて、気まずそうに小さく「ありがと」と呟いた。よしよし、いい子いい子。
額を合わせてみると、やっぱり普段よりも幾らか熱い。…つらいんだろうな、もっと早く気付いてやれればよかった。それだけが悔やまれる。


「……また風邪引いたらどうすんの?」
「えー、そしたら弘がまた看病してくれるでしょ?」
「そんで私がまた風邪引く羽目になるの?勘弁してよ……」


何やかんや言いつつも弘は、満更でもなさそうに口を尖らせる。…その目に微かに浮かんだ、熱のせいとは言い切れない涙は見ない振りを装うことにした。


「佐助、家くるの?」
「当たり前だろ?何言ってんのさ」
「なんだ、佐助の家まで連れてってくれるのかと思った」
「……弘ん家より遠いんだけど、家」


……すっとぼけた弘に、どうにかこうにか切り返せた俺様はえらい。しかしそんな配慮も虚しく、だって佐助のときは家でかんびょーしてあげたじゃない、だなんて熱のせいかほんの少し舌足らずになった彼女は、無防備にも俺の肩にしな垂れかかってくる。
まな板レベルとは言え柔らかな膨らみが無意識の下、再び俺の腕へと押し付けられた。

こ、こいつ……本当に食っちまうぞ…!




紙一重な微熱 彼女の場合

(……まあ、何でも良いですが帰るなら早く帰っていただけませんか。あなた方、完全に私の存在を忘れているでしょう)
(!? す、すんませ…)



―――――
120204
佐助「ここからは理性と本能の戦いだ」キリッ




prevtext top | next




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -